Tenderly Sweet
どんよりと空を覆う重い灰色の雲を見上げ、荒巻は白い息を吐いた。
首相官邸に足を踏み入れ、真っ先に茅葺の執務室へと向かう。
ノックをすると、「どうぞ」とすぐに返事が返ってきた。
「失礼します」
荒巻が中に入ると、茅葺は書類に目を通しているところだった。
書類から目を上げ、荒巻の姿を認めると、茅葺は眼鏡を外した。
「ご苦労様。荒巻さん」
その顔色は少々優れず、疲労が色濃く見える。
「今夜は雪が降ると聞いています。外は寒かったでしょう?」
「えぇ。空気がとても冷え切っていますな」
「そうですか。温かいお茶でも淹れましょう」
茅葺は立ち上がると、備え付けのポットの方へ歩いていった。
「総理。部下に淹れさせます」
「いえ、いいの。気分転換に自分で淹れます。そこに…座ってらして下さい」
茅葺の言葉に荒巻は素直に引き下がると、備え付けソファに腰を下ろし、茅葺の背中を見つめた。
その荒巻の鼻を甘い香りがくすぐる。
「お待たせしました。どうぞ」
茅葺が荒巻の前に白いカップを置いた。
「…ココア、ですかな?」
「えぇ」
自分の分のカップも置き、茅葺も荒巻の前に腰かける。
「男の方ならこういう時はコーヒーなんでしょうけれど…。疲れている時に甘いものが欲しくなるのは、女の発想でしょうか?」
その台詞は『お飾り首相』としての茅葺自身を自嘲しているようで、どこか痛々しい。
「…男には思いつかない、女性ならではの心遣いと言うべきでしょうな。頂戴します」
荒巻はそう言うと、カップを手に取りゆっくりと傾けた。
「…荒巻さん…」
カップの向こうで、「ありがとう」という小さな声が聞こえた。
荒巻が助手席に乗り込むのを確認し、草薙は車を発進させた。
しばらく車を走らせていると、草薙が小さく笑った。
「課長も隅には置けないわね」
「…何のことだ?」
「チョコレートの香りがするわ。もらったの?」
「随分と鼻が利くな。総理とココアを飲んだだけだ」
「茅葺総理とねぇ…」
草薙の口元に意味深な笑みが浮かぶ。
「何だ?」
「忘れたの? 今日はバレンタインデーよ?」
「…そうか」
荒巻はただ短くそう答えただけだった。
車の窓の外にちらちらと雪が降り始めた。
Fin
攻殻機動隊バレンタイン企画出典作品 その2
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