想いよ届け
「諸君〜! 今日は何の日か知っているか〜?!」
公安九課本部。思考戦車のハンガーにて。
1機のタチコマが台の上に乗り、盛大なアクションをつけていつものように演説を始めた。
「また始まったよ…」
呆れながらも、他のタチコマたちが台のそばに集まってくる。
「何々? 今日、何かあるの?」
「ふふふ。知らないのかね? 今日は『バレンタインデー』だぁっ!」
「あぁ。お菓子屋が経営戦略として始めたイベントのことだね。基本は女性が好意をもっている男性にチョコレートをあげることになってるみたいだけど、最近は色々なパターンが開発されているみたいだね」
「それ、知ってる〜。好きじゃない男性にあげるのは『義理チョコ』っていうんだよね〜」
「他にも同じ女性同士で贈りあったり、逆に男性から女性にあげるパターンもあるみたいだ」
「人間って奥深いね〜」
アームを組みうんうんと感慨深げに頷く。
「そこでっ!」
台の上のタチコマが一層大きな声を張り上げた。
「僕達もバレンタインデーをやってみないかね〜!」
「えぇ?! そんなこといったって、僕達はチョコレートなんて食べられないじゃないか」
「そもそも性別のない僕らの場合は『何チョコ』になるの? やっぱり『義理』?」
「僕はチョコレートより天然オイルが欲しいなぁ」
「ちっちっち。甘いな君たちは」
台の上のタチコマは指を振ると、アイボールをくるりと回した。
「甘いってなんだよ〜」
「チョコレートは糖分が含まれているんだから、甘いのは当たり前だろ」
「最近は糖分を抑えた甘くないチョコレートもあるみたいだけど、どっちにしても味覚という感覚器官のない僕達には無縁の話だよ」
「だ〜か〜ら〜。僕達の間でチョコレートを贈りあっても意味がないだろ!」
台の上のタチコマは苛ついたように地団駄を踏んだ。
「僕達からバトーさんにあげるんだよ!」
「…おぉ〜!」
どよめきが他のタチコマたちにも伝播していく。
「日頃お世話になっているバトーさんにチョコレートを贈ったら喜んでもらえると思わないかね諸君?!」
「それはいい考えだね!」
「でもでも。どうやってチョコレートを調達するの?」
「ネットで注文すればいいんだよ!」
「どんなチョコレートがいいかな?」
「あまり甘くないのがいいんじゃないかな? お酒が入ってるのもあるよ」
「でも一番喜ばれるのは『手作りのチョコレート』だって情報があるよ〜」
「『手作り』と言っても、売られているチョコレートを溶かして型に流し、別の形に作り変えるだけだろ? それって本当の意味で『手作り』って言えるのかなぁ?」
「う〜ん…」
タチコマたちはアームを組み悩みこんでしまった。
「バトー。ちょっといいかしら?」
呼び止められたバトーが振り向くと、草薙が笑顔で佇んでいた。
その笑顔が妙に怖い。こんな笑顔の時は話が『ちょっと』で済んだ例がない。
「タチコマがアフリカにものすごい数のカカオ豆を発注してるんだけど。あなた何か知らない?」
正直、バトーには何が起こっているのかまったく分からない。
しかし、『知らない』では済まされないタチコマと自分のつながりの深さに、バトーはただ引きつった笑顔を浮かべることしかできなかった。
Fin
攻殻機動隊バレンタイン企画出典作品 その4
その他 menuへ/
text menuへ/
topへ