青いバラをあなたに
街で拾った女を抱いた。青いバラをモチーフにしたドレスが似合う女だ。
バスルームからバスタオルを巻いただけの姿で出てきた女は、俺の目の前でタオルを床に落とし、服を身につけ始めた。
俺はベッドに座ったまま、紫煙越しにそれを眺めていた。
「同じ女とは二度寝ない主義だって…言ったわね?」
俺に背を向け、ブラジャーのホックを留めながら、女は言った。
「あぁ」
「でも、あなたと寝るのはこれが二度目だと言ったら?」
女は顔だけこちらに向けて、ふっくらとした唇で悪戯っぽい笑みを作る。
「あぁ。知ってるさ」
女がサイボーグであることはとっくに気付いていた。
そして義体化した理由も俺は知っている。
「『寝る』のは二度目だが、『抱いた』のはこれが初めてだ」
女は驚いたように軽く目を見開いた。
「………気付いていたのね」
「あぁ」
女は再び背を向け、椅子の背もたれにかけたままの青いドレスを手に取った。
「………理由を聞かないのね?」
「あぁ」
「何故?」
「それを聞きたいのは俺じゃないし、俺は余計なものを背負うつもりはない」
「…あなたらしいわ…」
目に鮮やかな青。
女の胸を飾る青いバラ。
「理由が必要なのか?」
女は答えない。
否、答えられないのだろう。答えなどないのだから。
「この世にありえない『青いバラ』。俺は幻を抱いた」
「!」
「ひと夜の夢だ。朝がくれば忘れる」
「…ふふふ…」
振り向いた女は笑っていた。
今にも泣き出しそうな顔で。
「酷い男」
「知ってるはずだ」
「そうね」
女はバッグからルージュを取り出すと、ベッドに乗り、にじり寄ってきた。
そしてルージュを引いた。
俺の心臓の上に。
「刺されないように気をつけなさい」
「了解」
女はベッドから下りるとルージュをバッグに仕舞った。
「幻は消えることにするわ」
「………一つだけ、あんたに言ってやれることがあった」
「なぁに?」
「あんたは悲しいほど綺麗だ」
「ふふふ………ありがとう。じゃあ………」
そうして幻の青いバラは消えた。
もしも、もう一度出会うことがあるのならば。
そのバラは何色で咲いているだろう………。
Fin
GIG→SSSでパズ素
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