ハートに火をつけて
「おい。何か落ちてるぞ」
ベッドの下にライターを落としたサイトーが、それとは別のものを拾い上げてパズに手渡した。
銀色の細長いシルエットのそれは、女物の口紅。
「片付けておけよ」
見知らぬ女と同じベッドの上で似たような扱いを受けたことに気分を害したのか、サイトーの声には若干の怒気が含まれていた。
拾い上げたライターで火をつける顔はいつものポーカーフェイスだが。
パズは煙草を咥えたまま、口紅の蓋を取ってみた。
パールの輝きを放つ鮮やかな赤。
しかし、こんな赤を引いた女がどんな女だったのか覚えていない。
パズの電脳からはすでに消去されてしまっている。
パズは煙草をもみ消し、隣りで煙草を吸っているサイトーの脚の上に素早くまたがると、生身の胸にルージュを引いた。
「何しやがる!」
「ハートに火をつけて」
「あ?」
見れば心臓の上にハートのマークが描かれている。
「スナイパーが接敵を許すなんて、命取りだな」
「…お前は敵か?」
「違うのか?」
「そうか」
パズの身体の下から脚を引き抜き、蹴り上げる。
派手な音を立てて、義態化率の高いボディがベッドの下に転がり落ちる。
「分かった。今度からは気をつけるとしよう」
パズが身体を起こすと、サイトーの背中がバスルームへと消えていくところだった。
床に落ちている口紅を拾い上げ、ゴミ箱に放り込む。
今頃サイトーは見知らぬ女への嫉妬心を消すために、必死に洗い流しているのだろう。
胸を赤く染めるほどに。
今度は何で火をつけてやろうか。
新しい煙草に火をつけて、パズは楽しげに薄く笑った。
Fin
P×S menuへ/
text menuへ/
topへ