言葉よりも 身体よりも
街中でパズと出会った。
どこかのバーで引っ掛けたのか、女を連れていた。
女はさも当然というようにパズの隣りを歩いている。
だが、パズがこの女と二度寝ることはない。
パズも俺に気づいたのか、細い目が更に細くなったのが見えた。
しかし、声をかけることも、電通で呼びかけることもない。
赤の他人の振りをしながら、パズがナイフを抜いたら頚動脈を切られかねない距離にまで近づき、すれ違う。
一瞬の煙草の香り。
振り返ることもなく遠ざかり、やがて人ごみの中に消えた。
パズと俺の関係は非常に曖昧だ。
ただの同僚ではない。
身体の関係はあるが、恋人でもない。
ある日一緒に飲みに行き、「寝てみないか」と誘われた。
俺は面白いと思い、「構わない」と答え、身体を繋げた。
それだけだ。
パズは女とも寝る。
俺はそれを咎める気もないし、またそんな権利もない。
それは俺にとっても同じこと。
溜まれば排出するために女を抱く。
それを咎められる謂れはない。
俺たちの間にあるのは、少なくとも愛や恋などといわれるものでない。
では何かと聞かれても明確な答えは出せない。
言葉にすると逃げる。つかめない。
そんな感覚の中にゴーストが漂っている。
パズは今頃あの女とベッドの中にいるのだろうか。
暗がりの中、俺はすぐそばにある黒い鉄の塊の感触を確かめて。
そして、目を閉じた。
≪サイトー≫
電通の機械的な声に、俺は目を開けた。
≪…何だ?≫
≪今どこにいる?≫
≪自分のセーフハウスだ≫
≪寝てたのか?≫
≪寝ようとしていたところだ≫
≪今から行っても構わないか?≫
≪あの女は?≫
≪別れた≫
≪捨てた、じゃないのか?≫
≪そうともいうかもな≫
≪酷い男だ≫
≪今更だな。…で、どうなんだ?≫
≪構わんが、酒もツマミもないぞ≫
≪買っていく。場所は?≫
セーフハウスのアドレスを送ってやる。
≪十分で行く≫
≪着いたら電通を寄越せ。セキュリティを解除する≫
≪分かった≫
ベッドから起き上がるとキッチンへと向かう。
言葉よりも確かで。
身体よりも曖昧で。
だからこそ俺たちは続いているのかもしれない。
Fin
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