キョウキ
「何のつもりだ?」
「お前にキスしてやるつもりだが?」
しれっと言い放つ男の言い草に、サイトーはムッとした表情を浮かべた。
「この状況でか?」
場所は路地裏。
人通りがないとは言え、監視カメラ等の人の目がないとは言い切れない。
「美味いディナーに上等な酒。綺麗な夜景。そんなセッティングをしてやらないと、お前はキス一つできないのか?」
「俺が言ってるのはそんな意味じゃねぇ。これはどういうつもりだと聞いているんだ」
サイトーの首筋には、パズが袖口から抜いたナイフが突きつけられている。
「これで俺を脅してるつもりか?」
「こんなもんで屈服するお前じゃねぇだろう?」
事実、パズの胸にはサイトーが抜いた銃口が突きつけられている。
互いにほんの少し手を動かせば、この世ではない場所に行くことができてしまう。
「じゃあ何だ? 殺るつもりがないなら、そいつを退かせ」
「それはお前も同じだろう。撃つ気がないならしまったらどうだ」
互いにプロであるが故に、退くことができない。
一瞬即発の炸薬の中で、後は暴発するのを待つだけだ。
「…俺を殺すのか?」
「お前は躊躇いもなく引き金を引くんだろうな」
俺なら慣れてる、と嘯きながら。傷だらけのゴーストをポーカーフェイスで隠して。
今更優しくしたところでその傷は癒せない。何よりもこの男の矜持がそれを許さない。
ならば痛みを知覚できないくらいに引き裂いてやるしか、この男を救うことはできないのではないだろうか。
パズは頑ななスナイパーの背中を見るたびにそう思ってしまう。
優しさよりも狂気を。
愛の囁きよりも凶器を。
「………やるならさっさとやれ」
それでも決して膝を折ることのない男の気高さに、パズは狂喜する。
「了解」
サイトーの指先にパズの命運を預けて。
パズの刃先にサイトーの命をのせて。
交わした口付けは煙草の香りがした。
Fin
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