FOCUS



 無意識に射角を探してしまうのは、スナイパーの性で。
 宙を見上げた先に、街頭の監視カメラと目が合ってしまった。
 何となく、隣りを歩く男との距離をあけてしまう。
≪どうした?≫
 サイトーの挙動が気になったのか、パズが電通を送ってきた。
≪いや。何でもねぇ≫
 本当に何でもない。
 同僚と道を歩いているだけ。
 監視カメラなど気にする理由も、動揺する理由も何もない。
「………………」
 パズが自然な動作で、スッと間合いを詰めた。
 一瞬、サイトーの身体が強張る。
≪止めとけ。かえって不自然だ≫
≪! 言われるまでもねぇ!≫
 再び並んで歩き始める。

 互いに日の当らない仕事をしている。
 義体化の技術が進歩し、性別の境界が曖昧になってきているとはいえ、背徳的な関係を持っている。
(…なるほど…)
 少しでも後ろめたいところがあれば、それがわずかであっても態度に出てしまう。
 サイトーは犯罪者の行動心理がほんの少し分かった気がした。
≪何を考えてる?≫
 電通でそう訊ねるパズの態度にはまったく変化はない。
≪別に何でもねぇ≫
≪そうだな。何てことはない。俺たちの関係は≫
 パズの言葉にサイトーの心臓が跳ね上がる。
 この男にはサイトーの心理が手に取るように分かってしまっているようだ。
 ポーカーフェイスが聞いて呆れる。
 サイトーは内心で自らを罵った。
≪もともと大っぴらにするような仲じゃねぇ。嫌になれば別れればいい≫
≪んなこたぁ分かってる≫
≪俺に執着しているわけじゃねぇんだろう?≫
≪当たり前だ≫
 パズを取り巻く女たちとは違う。
 繋がりたい時に繋がってそれで終わる。それだけの関係だ。
≪だが記録媒体に残せるような仲でもねぇだろう?≫
「あぁ」
 パズは監視カメラを見上げて、納得したように呟いた。
≪気にしすぎだ≫
≪用心に越したことはねぇ≫
≪そいつは『用心』じゃなくて『臆病』ってんだ≫
 パズはサイトーの腕を掴むと、サイトーの身体を引きずるように歩き出した。
「おい! パズ!」
「黙ってろ」
 路地裏に連れ込み、壁にサイトーの身体を押さえつけると、パズは強引にサイトーの口を塞いだ。
「ふ…う…っ!」
 深く口付けながら、有線する。
「…っ!」
 サイトーに突き飛ばされる寸前にQRSコードを外し、しゅるりと巻き取った。
「てめぇ…この画像…!」
 離れる直前にパズがサイトーの電脳に送りつけたのは、二人が絡みあっている一枚の写真。
「そこの監視カメラから抜いた」
「…なっ!」
「サーバーからは消してある」
 パズは煙草を咥えるとくるりと背を向けた。
≪だからそいつは記念にとっておけ≫
「…阿呆か貴様は」
 散々に罵りながらも、サイトーはパズの後ろを付いてくる。
「とっととてめぇの電脳からも消去しろ!」
「嫌だね」
「! 電脳を撃ち抜かれたいのか!」
「やってみろ」
 結局その画像はパズの外部記録装置に今も残されている。
 そして、多分サイトーのにも。
 サイトー自身は決して認めたがらないのだが………。



Fin



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