多分、最悪の日



 処分するつもりのセーフハウスに行ってみると、ソファにカビが生えていた。
 最悪の事態を想定して、緊急用に確保しただけの部屋なので、使用頻度はかなり低い。だからカビのコロニーが発生していてもおかしくはないのだが。
「ちっ」
 サイトーは忌々しげに舌打ちすると、クローゼットから取り出したタオルを洗面所で水に浸した。
 それにしても。長く使っていなかったとはいえ、あんなに簡単にカビが生えるものだろうか。
 カビも生き物であり、栄養分がなければ生きられない。
(………あそこで何か零したか?)
 サイトーは電脳内の記憶を探る。
 最後にここを使ったのは確か2ヶ月前。パズと飲みに行った帰りに雨に降られて駆け込んだ。
(あぁ………そうだ)
 濡れてしまった服を脱ぐついでに、なし崩しであいつと寝たんだっけ…。
 つまりこのカビは、サイトーとパズの体液を養分にして発生したのだろう。
「ちっ」
 濡らしたタオルでゴシゴシと擦る。
 表面は綺麗になっても、奥深くまではった根は取り去れない。
「くそ…!」
 いっそ焼き捨ててしまいたい。
 このソファもあの日の記憶も。
 しかし、焼き捨てたところで消えはしない。
 サイトーのゴーストの奥深くにはった『パズ』という名の根は。
「…最悪だ」
 サイトーはこのセーフハウスを即刻処分し、カビの生えたソファは焼却処分した。



「このソファ、合皮か? 触り心地があまり良くねぇな」
「カビが生えなきゃいいんだ」
 サイトーが新しく確保したセーフハウスを訪れたパズはそれ以上何も言わず、サイトーの身体をソファに押し倒した。



Fin



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