煙草の煙



 まるで煙草の煙のようだなと思う。
 そこにあるのに現実味がなく、掴もうとしても掴めない。
 香りと色でわずかに個を主張する。
 なくても別に困らないが、ないと少し口寂しい。



 自分から微妙な距離の位置に立ち、煙草を咥えた同僚を見て、パズはそう思った。



 煙草を口に咥えたサイトーはズボンのポケットに手をやった。
 しかし、目的のものが見つからず、身体中を叩き始める。



「…サイトー」
「…悪いな」



 差し出されたパズのライターを受け取り、サイトーは自分の煙草に火を点けた。



「ありがとよ」
「あぁ」



 サイトーの煙草の煙が自分のものと空中で混ざる様を、パズは目を細めて見つめていた。



≪サイトー。今夜空いてるか?≫
≪美味い酒があるなら、空けてやらなくもない≫
≪取って置きの酒がある≫
≪なら乗ってもいい。いつもの部屋か?≫
≪あぁ≫



 煙のように曖昧で、その時の風によって形を変え、幻のように消えてしまう。
 まるで自分たちの関係のようだ。
 火を点けて、混じって、混ざって、昇華して消える。
 煙と違うのは、手を伸ばせば触れることができることぐらいだろう。



≪定時過ぎたら、下の駐車場で待ってる≫
≪あぁ≫



 自分の煙草を消して、屋上を後にする。
 今夜は何も起こらなければいい。
 事件が起これば、たった今交わした約束は反故になる。



 そう。まるで煙草の煙のように………。



Fin



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