その夜、星が流れた



「…あ」
 張り込み中の車の中。運転席に座っているパズの口から、少し驚いたような声が漏れた。
「どうした?」
 その声に助手席に座っていたサイトーが身を乗り出した。
「流れ星」
「………あ?」
「今、空に星が流れていった」
 そう言って、パズは火の点いた煙草、でフロントガラス越しに空を指差した。
「…お前なぁ」
 シートに座りなおしたサイトーは少々呆れ気味に呟いた。
「タチコマも張り付いている。心配ねぇよ」
 今のところ対象に動きはなく、タチコマも対象の監視についているので、そう神経を尖らすこともない。むしろ退屈なくらいだ。夜空くらい拝みたくなる。
 溜め息をつく代わりに見上げた空に星が流れた。それだけだ。
「で?」
「ん?」
「何かお願いでもしたのか?」
 流れ星にお願いすると願いが叶うというお呪い。パズがそんなジンクスを信じていないと知っている上で、サイトーは茶化したように笑った。
「あぁ。したよ」
 ちょうど退屈していたところだ。サイトーが仕掛けた遊びに乗らない手はない。
「へぇ。何を願ったんだ? 世界平和か?」
「お前には俺が博愛主義者に見えるのか?」
「少なくともお前以上の利己主義者に会ったことはねぇな」
「被虐性愛者のお前に言われたくねぇ」
「俺も加虐性愛者のお前に言われたくねぇよ」
 言葉のジャブを交わし合いながら、笑いあう。
「俺が願ったのは『サイトーとキスがしたい』だ」
「そうか」
 ギシリと、サイトーの体重移動の煽りを受けて、シートが鳴った。
 ライターの炎で煙草に火を点けるように。
 サイトーの唇がパズのそれに触れ、離れていった。
「…願ってみるもんだな」
 サイトーは小さく笑い、パズは長くなっていた煙草の灰を灰皿に落とした。
 ガラス越しに夜空を見上げる。
「もう一つ流れないかな」
「今度は何だ?」
「『今夜、サイトーと寝れますように』だ」
「それならもう一つ必要だろ」
「あ?」
「『仕事が早く終わりますように』だ」
「…あぁ」
 対象に動きはまったくない。二人が任務から解放される可能性は低そうだ。
「タチコマに言って、衛星でも落としてもらうか?」
「そいつはいいアイデアだ」
 煙を吐き出し、灰皿で煙草をもみ消す。
≪タチコマ≫
≪はいは〜い。お呼びですかぁ?≫
 その夜、いくつもの星が流れたという。



Fin



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