現在(いま)に至る軌跡



 それは点々と連なっていた。
 玄関からベッドまで続く、サイトーとパズが脱ぎ捨てていった衣類と武器類。
 文字通り衣を裂くような悲鳴を上げたシャツは、恐らくもう着ることはできないだろう。
 飛べるところまで飛んで、正気に戻ってみるその有様は、サイトーをひどくげんなりとさせた。
(ガキじゃあるまいし。どれだけ盛ってるんだか)
 自分もパズも。
 そう、あの時はベッドまでの距離と時間があまりに遠く感じて、もうどうしようもなく、これで最後といわんばかりに抱き合った。
(馬鹿らしい)
 気が向けば、いつでも寝られる相手なのに。
 いつでも終わりにできる相手だったはずなのに。
 この軌跡が続く先が見えない。
(馬鹿馬鹿しい)
 サイトーは首を振ると、散らばる衣類をまたいで廊下を渡り、バスルームへ向かった。



 身体を洗い流してバスルームを出ると、廊下は綺麗に片付けられていた。
 居間に入ると、ソファでスラックスだけを身につけたパズがビールを片手に寛いでいる。
「勝手にもらったぞ」
「あぁ」
 サイトーも冷蔵庫からビールを取り出し、プルタブをあける。
「片付けたのか?」
「お前の銃はそこ。服はそこ。シャツはゴミ箱」
「弁償するか?」
「いい。お互い様だ」
 パズはもちろん、サイトーも片腕を義体化している。そんな腕で剥ぎ取られたら、シャツなどひとたまりもない。
「だが、今夜は帰るつもりなんだろう?」
「あぁ」
「着替えは?」
「必要ない」
 パズは飲み干したビールの缶を握りつぶすと、傍らに置かれていたジャケットを手に取り、素肌に直接羽織った。
「それで帰るつもりか?」
「どうせ駐車場までだ」
 シャツがないため、いつもより大きく開けられた胸元で金のネックレスが光る。
「今夜は悪かったな。サイトー」
「いい。忙しいのはお互い様だ」
「そうじゃねぇ」
「あ?」
≪もっと鳴かせてやれなくて≫
「ば! 馬鹿野郎! とっとと帰れ!」
 パズは投げつけられた缶を軽く避けると、飄々と去っていった。
 サイトーが見えない場所からドアが閉まる音が響き、セキュリティが自動でかかる。
 サイトーは滅多に使わないセーフハウスに独り残された。
 現在に至る軌跡がまるで幻のようだ。
 潰れた缶と廊下に転がる缶を拾い上げ、キッチンに置かれたゴミ箱へと向かう。
「………あ」
 青と白のシャツだったものが捨てられていた。シャツに付着した汗からDNAデータを抜かれないため、9課で焼却処分する必要がある。
 始まりも終わりも見えない軌跡。
 このシャツを焼くように、電脳を焼ききるように。いつかは消えてしまう軌跡。
 けれど。
 どんなに消そうとしても、この身体が覚えている。
 疼き続ける熱とともに。



Fin



P×S menuへtext menuへtopへ