誰もいない部屋



 誰もいないリビング。
 玄関からも窓からも逃げやすいように配置されたソファ。
 テーブルの上に置かれた灰皿にはゴミ一つ落ちていない。

 誰もいないキッチン。
 使われることのないシンクや水切りカゴは乾燥している。
 冷蔵庫にはミネラル・ウォーターとビール。そして銃が少々。

 誰もいない寝室。
 糊のきいたシーツにはシワ一つない。
 ベッドサイドに置かれたランプの傘に埃が積もっている。

 カビと埃の香りが漂い、生活観のまるでない部屋。
 見る者が見れば分かる、セーフハウス独特の雰囲気。

 冷蔵庫から取り出したミネラル・ウォーターを一口飲み干し、テーブルの上に置くと、煙草を取り出して火を点けた。
 静寂のみが支配する空気を乱すように、煙を吐き出す。
 煙は戸惑うようにしばらく漂っていたが、やがて消えて見えなくなった。

 いったい誰が信じてくれるというのだろう?



 この部屋にあいつがいたということを。
 存在証明はゴーストに残る僅かな疼きだけだった。



Fin



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