冷たい男(ひと)



「…パズ。何か体温高くないか? 風邪………な訳ねぇよな…」
 いつものようにシャツを剥かれてベッドに組み敷かれたサイトーだったが、掴んでいたパズの肩から手を放し、訝しげにその肌を撫で回した。
 義体化率の高いパズが風邪のような安易な病気にかかるはずもない。
「分かるか?」
「当たり前だ」
 パズとはもう何度も肌を重ねている。自分より低めのその体温は、サイトーにとって馴染んでしまった感触だ。
「義体の調子が悪いんじゃねぇのか?」
「いや。どこも悪くない。わざといつもより上げているだけだ」
「何故?」
「この前、生身の女と寝たら、体温が低くて死体と寝てるようだと言われた」
 サイボーグは概して体温が低い。残された生体部分を保護するための処置だ。
 パズも例に漏れず、体温を低めに設定している。
「今のご時世、サイボーグ化してる奴なんて珍しくないだろうに。その女、生身の男専門だったんじゃねぇか?」
「さぁな。どうせもう二度と寝ることもない女だ」
「なら気にする必要はねぇだろうが」
「そうもいかん。お前は違うだろ、サイトー」
「あん? 俺も生身だから気を遣ってるってか?」
「冷たいよりはいいだろう?」
「いらんお世話だ」
 サイトーは拳を作るとパズの胸を軽く叩いた。
「どんなに肌が冷たかろうが、お前は生きてんだろうが」
「!」
「死体でマスかくほど、俺は悪趣味じゃねぇよ」
 握っていた拳を広げて、パズの胸に押し当てる。
 機械化された心肺が脈動する振動が手のひらに伝わってくる。それはパズが確かに生きている証しだ。
「嘘をつくのはかまわん。だが俺の前で飾るな。気味が悪ぃ」
「…酷ぇ言い草だ」
 飾ることを知らないサイトーの台詞が、パズのゴーストに突き刺さる。だがそれはパズに安堵感をもたらしてくれる。
「いつもままにしておけ。じゃないと居心地が悪いんだよ」
「了解」
 喉の奥で笑いながら、通常に戻した体温でサイトーの身体を抱きしめる。
 冷たい肌に伝わる生身の温もりが心地良かった。



Fin



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