He may cry



 屋上のドアを開けると、見知った背中越しに立ち上る紫煙が見えた。
 サイトーの気配は既に悟られている。このまま戻るのも変な気がして、パズの隣りに並んで煙草に火を点けた。
 事の概要はバトーから聞いている。パズ自身が提出した報告書は、プライベートに立ち入ってしまう気がして見ていない。
 横目でうかがうと、胸の傷痕はすでに換装されていた。
 サイトーの脳裏にふとある言葉が浮び、口から零れ落ちた。
「...Devil may cry」
 それは低い呟きだったが、耳に届いたのか、パズが横目でサイトーを見ている。
「ロクデナシも泣くのか?」
 パズはふうっと煙を吐き出した。
「………泣かねぇよ」
 煙草をフェンスの向こうへ弾き捨て、パズが踵を返す。
 夜の街へ、女を抱きに行くのだろう。
 ドアが閉まる音を背中で聞きながら、サイトーはパズが捨てた煙草が消えた先をずっと見つめていた。



Fin



P×S menuへtext menuへtopへ