ルーム・ライト
微かな物音にサイトーは目を覚ますと、手を伸ばしてサイドテーブルの灯りを点けた。
仄かな灯りの中に人影が浮かび上がる。
「…パズ」
「すまん。起こしたか?」
ミネラル・ウォーターのボトルを手にしたパズが、煙草を咥えて立っていた。
「喉が渇いてな。お前も飲むか?」
「あぁ」
サイトーはボトルを受け取ると、半分ほど一気に飲み干した。思っていた以上に喉が渇いていたようだ。
ここはパズのセーフ・ハウス。
いつものように誘われて、酒を飲み、パズに抱かれた。
「………今、無意識にランプに手が伸びた」
サイトーが漏らした呟きに一瞬怪訝そうな顔を見せたパズだったが、サイトーが言いたいことを悟り小さく笑った。
「ここは俺のセーフじゃない」
けれど身体が家具の配置を覚えてしまっている。無意識にランプのスイッチに手を伸ばせるほどに。
他人の家の空気に慣れてしまうなど、今まで一度もなかったことだ。
その事実にサイトーは驚きを隠せない。
「…半分お前の家みたいなもんだ」
「だが俺のセーフじゃない」
「お前ならどんな場所だろうと適応して生きていけるだろ?」
「!」
「お前はこの場所に適応した。それだけだ」
決して気が緩んでいるのではない。いつものお前を変らない。
言外に含んで伝えてやると、サイトーはやっと肩の力を抜いた。
「………俺と寝る時は大体ここだな」
「便利なんだよ。食料と酒がすぐに調達できて、調度品も程よく揃ってる」
「セフレ専用セーフ・ハウスか?」
「お前専用だ。女はもちろん、他の奴をこの部屋に入れたことはない」
「………………………」
「言っただろ? 半分お前の家だって」
呆れたようにぽかーんと口を空けていたサイトーは、やがて顔を歪めてそっぽを向いた。
「…規則性を作ると敵につけ込まれる」
それが照れ隠しであることは分かっていたので、パズはニヤリと笑った。
「今度、別の部屋も用意するよ。お前専用で」
「別に俺専用にする必要はねぇだろうが」
「俺が嫌なんだよ。お前を他の女の匂いで穢したくない」
薄暗がりでも分かるほど、サイトーは真っ赤になっていた。
「…今の言葉、キたのか?」
「………馬鹿だろ、お前」
「そうか。図星か」
「! お前の部屋には二度と来ねぇ!」
「お前のセーフを俺専用にするから構わん」
「っ!」
「口説かれろよ、サイトー」
「断る!」
「大丈夫だ。お前ならすぐに慣れる」
「そういう問題じゃねぇ! …乗るな、パズ! おい…!」
よく慣れた身体は受け入れるのも早く。
「…くそったれ…!」
零れ落ちた悪態を聞き流して、パズは満足そうに吐息を漏らした。
Fin
P×S menuへ/
text menuへ/
topへ