ルーム・ライト -Side:P-
帰宅前に点いている灯り。
見たこともないカーテン。
クローゼットの中に増えている着替え。
自分は吸わない銘柄の煙草、数カートン。
冷蔵庫の中に増殖した調味料とワイン。
洗面所の鏡の前に立てかけられた2本の歯ブラシ。
そして、いつの間にかシングルからダブルの大きさに変わったベッド。
「パズ!!!」
サイトーは肩をわなわなと震わせながら声を上げた。
「人のセーフに巣を作るな! テメェはゴキブリか?!」
「酷ェ言い草だな」
サイトーの怒りも意に介さず、パズは煙草を咥えたままキッチンでフライパンを振っている。
「テメェ、ベッドはどうした?!」
「二人で寝るには狭いから買い換えた。ベッドに隠してあった武器類は、そのまま新しいベッドに移設してある。後で確認しておけ」
「勝手にやるな!」
「俺もこの辺にセーフハウスが欲しかったんだよ。維持費は折半するって言ってんだろ」
「そういう問題じゃねぇ! セキュリティ情報まで勝手に書き換えやがって」
「そいつは管理の杜撰なお前が悪い。踏み込まれたくないなら、俺につけ入る隙を与えるなと、いつも言ってるだろう?」
「ぐ…」
確かにそれはパズの言うとおりで。パズにここまでつけ入れられたサイトーに非がある。
しかしだからといって、我が物顔で使われると、流石に頭にくるのだ。
「それにだな。お前にしては珍しく充実したキッチンなのに、インスタントコーヒーを淹れるために湯を沸かしたり、レトルト温めるだけにしか使わないのはもったいなさ過ぎるだろ」
サイトーは殆ど料理をしない。腹が膨れれば満足なので、その辺で調達してきたレトルト食品で充分事足りてしまう。
逆にパズは食にうるさく、レトルトは滅多に口にしない。どんなに疲れていても、否、疲れているからこそ、食事はきちんと作って食べる。
パズが初めてサイトーのこのセーフハウスに来た時、まったく使われた様子のないシステムキッチンを見てひどく嘆いていたのだ。
それ以来、パズがサイトーのセーフに来る時は高確率でこの部屋が選択され、パズが料理の腕を披露し、サイトーは美味い食事にありつくことができた。
そうしているうちにいつの間にか部屋のセキュリティをパズに乗っ取られ、サイトーが知らないうちに部屋の改装が行われていた。
そして現在に至る。
「ほら。飯できたぞ」
パズがテーブルに運んできたのは、スパイスから厳選して作り上げたカレーピラフ。香ばしい匂いに思わずサイトーの腹が鳴る。
「お前の腹の虫はまったく異論なさそうだな」
「うるせぇ」
サイトーは腹立たしげにスプーンを掴んで、ピラフをかっ込み始めた。
「美味いか? サイトー」
「………食えなくはない」
「素直に美味いと言えないのか、お前は…」
パズは呆れたように呟いた。
(畜生、畜生、馬鹿野郎!)
絶品のカレーピラフを頬張りながら、サイトーは心の中でパズを罵倒し続ける。
(いつか絶対に追い出してやる!)
「それで次は何が食いたいって?」
「………………………おでん」
「了解。まずは鍋の調達からだな」
その決意が実行される日はきっと来ない。
Fin
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