Short mail



 格闘の末に拘束したターゲットを県警に引き渡すと、パズは草薙に電通を送った。
≪少佐。終わりました≫
≪ご苦労。撤収しろ≫
≪了解≫
 すると、護送車まで連れ添っていたボーマが、パズの肩を指先で叩いた。
「パズ。あれ…」
「あ…」
 ボーマが指差した先に、携帯端末が水溜りの中に落ちている。
「あれ、お前のだろ?」
「…あぁ」
 先ほどの格闘戦の最中にポケットから落ちてしまったのだろう。
 踏みつけられたのか、液晶が無残にも割れてしまっている。
「データは?」
「大した物は入れてない」
 アドレスはロックをかけて簡単には見えないようにしてあり、また受け取った重要なデータはすぐに外部記録装置に転送するようにしている。
 壊れてしまってもすぐに困ることはないのだが、敢えて言うなら赤服たちの小言が鬱陶しいくらいだろう。
「帰るか」
「あぁ」
 パズは車の運転席に乗り込むと、ボーマを乗せて発進させた。



 報告書を書き上げ、帰る際に赤服から新しい携帯端末と小言をもらった。
 小言の方は聞き流し、新しい携帯端末だけ受け取ると、地下駐車場へのエレベーターに乗り込んだ。
 エレベーターの壁に背中を預けて、端末を開く。バックアップしておいたアドレスのデータを移すと、他人に見られないようパスワードを付けてロックした。
 その他のデータフォルダは当然のことながら何も入っていない。赤服も壊れた端末からデータを拾おうとは思わなかったのだろう。またパズ自身も依頼しなかった。
 壊れた携帯端末にはメールのデータが一つだけ入っていた。

『飲みにいかないか?』

 ずっと前に受け取った、件名もなく、簡潔な本文のみのメール。当の本人は送ったことすら覚えていないだろう。
 消すこともできず、外部記録装置に保存しておくのも変な気がして、ずっとそのままにしていたのだが。
 結局は壊れて、消えてしまった。
 ほんのわずかな寂寥感と後悔が、パズのゴーストにかすかな痛みを感じさせた。
 地下駐車場に降り立ったパズは車に乗り込むと、端末を操作して電話をかけた。
 出た相手に告げたのはただ一言だけ。

「飲みにいかないか?」

 返ってきた返事もまた一言だけだった。



Fin



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