予定のない休日



「来るか?」
「ん」
 パズとサイトーの会話は必要以上に言葉数が少ない。



 たったそれだけのやり取りだが二人の意思疎通はできていて、パズがセーフハウスの扉を開けるとサイトーが立っていた。
「邪魔するぞ」
「あぁ」
 サイトーがこのパズのセーフハウスに来るのは初めてはない。もう何度か来ている。
 どこに何があるか、少しなら把握できている。ここはそんな部屋だった。
「何か持ってきたのか?」
「ボーマから借りっぱなしになっている小説を持ってきた。お前は?」
「昨夜のうちにビデオを借りてきた」
「どんなヤツだ」
「分からん。タイトルだけ見て、適当に選んできた」
 サイトーがリビングに入ると、モニタに古そうな映画の画像が流れている。
 サイトーがソファに腰を下ろすと、パズはそのままキッチンへと入っていく。
「おい。止めなくていいのか?」
「音が聞こえればいい」
 適当に選んだだけあって、本気で見るつもりはないらしい。
 平日の昼間に放映されている番組は興味をそそられるものはなく、それよりは幾分かマシということなのだろう。
「コーヒーでいいだろう?」
「あぁ」
 久しぶりに取れた休暇とはいえ、昼間から酒を飲むなど怠惰的な過ごし方はしたくはない。
 いつ緊急が入って呼び出されるか分からないのだから。
 程なくして、パズが2つの白いカップを持って現れた。
 芳ばしい香りがサイトーの鼻をくすぐる。
「美味そうだな」
「美味そうだ、じゃなくて美味いんだ」
 傲慢に言ってのけるパズの言葉に、サイトーは小さく笑った。
 しかし、その言葉に偽りはなく、パズが淹れた褐色の液体はサイトーを唸らせるだけのものが込められていた。
 パズはサイトーの斜め向かいに腰を下ろすと、垂れ流しになっている画面に視線を向けた。
 サイトーもしばらくその画面を見つめていたが、特に面白みを見出せず、持ってきたカバンの中から小説を取り出して読み出した。

 聞こえる音は映画の音声。
 小説のページをめくる音。
 コーヒーをすする音。
 足を組みかえる衣擦れ。
 ライターをする音。

 カップが空になるとパズはキッチンに向かい、カップを新たなコーヒーで満たす。

 コーヒーのアロマ。
 煙草の煙。

 会話するでもなく、一緒に何かをするわけでもなく。
 同じ空間に身をおいて、それぞれに時を過ごす。

 それは呼吸するように自然で、窮屈さを感じない。
 そのひと時はとても貴重で。終わって欲しくはなかった。



「…パズ。映画が終わっているぞ」
 目を開けるとパズを見下ろしているサイトーが見えた。
「…小説は読み終わったのか?」
「あぁ」
「どうだった?」
「まぁまぁだな。それよりそろそろ飯の時間だが、どうする?」
「…作る」
 仕込みを済ませて冷蔵庫にしまってある。
 後は軽く火を通して盛り付ければいいだけだ。
「ほら」
 少しぼぉっとしていると、目の前にカップを差し出された。パズが寝ている間にサイトーが淹れたようだ。
 パズがカップを受け取ると、サイトーも腰を下ろしてコーヒーをすする。
「…ぶっ!」
 途端にサイトーが吹き出した。
「何だこりゃ」
「豆の入れ過ぎだな」
「すまん。淹れなおしてくる」
「いや、悪くない」
 濃すぎて苦いコーヒーも。
 目覚めのための不器用なキスも。
「そうか?」
「あぁ」
 たまにはこんな休日も悪くない。



Fin



てる様からのリクエスト/『コーヒータイムでまったりなパズサイ』
リクエストありがとうございました。





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