戯れ



 胸に伸びてきた手を払いのけると、その手首を掴まれた。
「何だよ?」
「ドックタグ」
「あ?」
「見せてくれ」
 元より、こいつは口数が少ない。
 黙ったままでいると了承と取ったのか、掴んでいた手を離し、再び俺の胸に手を伸ばした。
 冷めた指先が一瞬だけ心臓の上を掠り、ドックタグをすくい取る。
 奴は細い眼をさらに細めて、ドックタグを眺めていた。
 しばらくの間しげしげとそれを眺めた後、ドックタグを放して元の姿勢に戻った。
「………それだけか?」
「あぁ」
 こいつは口数が少ないんじゃない。致命的に足りないのだ。
 何がしたかったのか、まったく分からない。それに振り回される身にもなって欲しい。
 思わず小さく舌打ちすると、奴はおもむろに口を開いた。
「サイトー」
「何だ?」
「御希望ならそのドックタグをむしり取って押し倒してやるが?」
「…ふざけんな、馬鹿野郎」
 そして、結局、奴の戯れに付き合わされてしまう自分がここにいる。
「………気ィ悪ィ」
「良くしてやる」
 力任せにむしり取られたドックタグが、奴の手の中でキラリと光った。



Fin



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