Fragrance
隣に並んだ男から漂う甘い香り。
「………香水か?」
「いや。石鹸だ」
パズは煙草に火を点けながら答えた。
「そんなに匂うか?」
「まぁな。お前は普段がヤニ臭いからなおさらだ」
サイトーは煙草の煙を吐き出しながら、嘲笑するように笑った。
今、二人がいる場所は高層ビルの屋上なだけあり、風向きがくるくると変わる。
風が悪戯に運ぶ煙草よりも、作り物の花の香りがサイトーの鼻につく。
「光学迷彩しても、その匂いじゃ接敵がバレるな」
「後でシャワーでも浴びるさ」
「新しい女の趣味か?」
「昨日拾った女と入ったホテルにあった石鹸だ。バラの形をしていた」
「それはバラの香りか」
「そうらしいな。他に何もなくてな。女の香水の方がきつかったから、その時は気にならなかった」
「よくまぁ…そんな女と寝れるな」
「一晩だけだからな」
シャワーを浴びて情事の跡を残さず洗い流し、ホテルを出たのはつい数時間前だ。
朝の一服のために屋上に上がってきたら、先客がいた。
「少佐に見つかる前にその匂いを何とかしておけよ」
サイトーは踵で煙草の火を揉み消すと、携帯灰皿に吸殻を入れ、踵を返した。
そんなサイトーの右腕をパズがおもむろに掴む。
「? 何だ?」
訝しげなサイトーを真っ直ぐに見詰めながら、パズはサイトーの手を取った。
「おい…何を…?!」
振りほどこうとしても、義体化されたパズの腕力には敵わない。
パズは掴んだ手をゆっくりと口元に引き寄せた。
「おい?!」
薄い唇に触れる直前でぴたりと止まる。
「………甘いな」
パズは低く小さく呟いた。
「………あ?」
サイトーの口から間の抜けた声が漏れる。
「硝煙の…お前の香りだ」
満足したのか、パズは薄く微笑みながらサイトーの手を放した。
「キスでもされるかと思ったのか?」
「………………………」
全くの図星なので、サイトーは何も答えられず押し黙った。
「…お前も少佐に出くわす前にその赤い顔を何とかした方がいい」
「!」
「嘘だよ」
「…っ!」
からかわれたのがよほど悔しかったのか、サイトーは何も言わずに屋上から下りていってしまった。
後に残されたのは煙草と作り物のバラの香り。
そして、パズの脳殻を麻薬のように刺激する…微かな硝煙の香り。
Fin
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