COOL DOWN



 小雨が降る夜の歩道。
 煙草を咥え、ポケットに手を入れたまま歩く男を見た。

 女のところに行く途中なのか。
 逆に女に振られてきたのか。
 歩道を照らす街灯の灯りだけでは、男の表情は窺いしれない。
 最も明るいところでも分かりにくい男ではあるのだが。

 ほんの一瞬だけ車に乗せてやろうかとも考えたが、サイトーはブレーキを踏まず、そのまま雨の中を歩くパズの横を走りすぎた。
 バックミラーにパズの姿が映る。
 それも小さくなり、やがて見えなくなった。



 だから扉を開けた先にその男の姿が見えた時、サイトーは驚かなかった。
 どれだけ雨の中にいたのか。雨で解れた前髪からはもちろん、服の裾からも水滴が滴っている。
「…水もしたたる色男を気取りたいなら、女のところに行けよ」
「つれないな」
 パズの方も通り過ぎていくサイトーに気付いていたのだろう。
 交通管制システムにハッキングをかけ、サイトーの車のナンバーからこの場所を割り出し追いかけてきたようだ。
 サイトーも追跡の可能性に気づいてはいたが、殊更痕跡を消すことはしなかった。
「逆上せた頭を冷やしてんのかと思って、放っておいてやったんじゃねぇか」
「雨じゃ冷えそうにないんでな。吐き出しにきた」
 パズはサイトーの胸ぐらをつかむと強引に引き寄せ、項に手を回して唇を奪った。
「…んふ…っ!」
 舌で歯列を割ると、苦しげな吐息がサイトーの口の端から漏れる。
「…やめろ!」
 サイトーは左腕の義体出力でパズの身体を引きはがした。
「こっちまで濡れちまったじゃねぇか! とっととバスルームに行って、その濡れた服を何とかしろ!」
「おう」
 パズは身をかがめると、サイトーの身体を肩に担ぎあげた。
「おいっ!」
「お前も濡れた服を脱ぐだろ?」
「………お前なぁ」
 ペタペタと濡れた足音を残して、二人はバスルームに消えた。



Fin



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