夕立
急な雨に追い立てられ、サイトーは近くにあった非常階段の下に慌てて逃げこんだ。
「ちっ…!」
雨脚は強く、すぐにはやみそうもない。酒でも飲んで帰ろうとルートを変えたのが誤算だった。
≪サイトー。今、どこにいる?≫
すると不意にパズから電通が届いた。
≪外だ。雨に降られて、雨宿りしている。何か用か?≫
≪やっぱりそうか。この雨をみて、そんな予感がしたんだ。場所を送れ。拾ってやるよ≫
≪悪ィ。助かる≫
サイトーが位置情報を送ると、一呼吸おいて「すぐに行く」と返事が返ってきた。
正直、この雨の中で立ち往生するのは嫌だったので、パズの申し出はありがたかった。このタイミングで電通が送られてきたことは気になるのだが。
降り続く激しい雨を見上げながら煙草を吸っていると、安物のビニール傘をさした男が歩いてきた。
「…パズ」
「待たせたな」
「いや。助かった」
サイトーは吸っていた煙草を水溜りの中に落とした。
「車は近くか?」
「いや」
パズははぐらかすように答え、サイトーに傘を差し出す。サイトーが傘を受取ると、パズはジャケットを脱ぎ、頭から被った。
「俺のセーフがすぐそばだ」
「………車じゃねぇのかよ」
「車だとは言ってねぇ」
そして踵を返して、雨の中を歩いていく。
「お、おい! パズ!」
サイトーは慌ててパズの後を追いかけた。
「パズ。お前、傘は?」
「それしか持ってきてねぇよ」
「濡れるだろうが」
「それに二人で入るか? お前も俺も濡れちまうだろ」
「だが…」
「義体化率が違う。雨に濡れて、体調を崩す可能性が高いのはお前の方だろう?」
サイトーは鍛えている。決して軟ではない。だが、やはり生身だ。少しの油断が病魔を引きよせかねない。
「雨がやむまで、俺の部屋でコーヒーでも酒でも飲んでいけばいい」
「………それが目的か」
何故このタイミングで電通が送られてきたのか。その理由を悟って、サイトーは小さく溜め息をついた。
「IRシステムで俺をつけてたのか?」
「そんな無粋な真似はしねぇよ。ただ、帰り際に、車じゃなく歩いて帰るお前の後ろ姿をちらっと見かけた。それでこの雨だろ? 少し気になった。それだけだ」
「………………………」
「嘘じゃねぇよ」
今度はパズが溜め息をついた。
「引き留める努力はするが、お前を縛るつもりはない。雨がやんだら帰るなり、お前の好きにすればいい」
「…すまん」
サイトーはパズの好意を疑ったことを素直に詫びた。
「謝るな。帰したくねぇのは事実だ」
「…それなら。濡れた服を洗濯して乾くまで居させろ」
「…あぁ。いいよ」
叩きつけるような激しい雨の中を連れだって歩く。その姿は路地裏に消え、やがて見えなくなった。
Fin
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