Pray -15th March-



「サイトー」
 タチコマのポットに乗り込もうとしていたサイトーは、その声に気付いて後ろを振り向いた。
「あ。パズさん!」
 サイトーと同じく声に気付いたタチコマが、明るい声を上げる。
「…パズ?」
 サイトーと同じく光学迷彩服に身を包んだパズがそこに立っていて、サイトーに向かい何かを放り投げた。
「ほら」
「何だ?」
 ポットにかけた足を下ろして、慌てて受け止める。
 それはサイトーが愛用している煙草とともに、輪ゴムで一纏めにされていた。
「え〜何? サイトーさん、何をもらったの?」
 情報収集に余念のないタチコマは興味深々といった態でサイトーの手元を覗きこんでくる。
「レーション? 何でまた…?」
 それは自衛隊などで配給される携帯食料の一つで、ビスケット状の固形食糧だ。
 パズがこれをどのような経路で入手してのか不思議で、またこの時点で手渡された意図が分からず、サイトーが訝しげにパズを見つめ返すと、パズは自分のこめかみを指先で叩いた。
 暗号通信の回線を開けという合図だ。
「え〜。二人きりの会話なんてズルイよ〜。ボクも聞きた〜い」
「喧しい」
 サイトーはタチコマに一喝すると、言われたとおりに回線を開いた。パズの声が電脳内に響く。
≪ホワイトデーだ。一日遅れのな≫
≪…はぁ?≫
 あまりに予想外の答えに、サイトーは間抜けな声を上げてしまった。
≪クッキーなんぞの菓子より、お前ならそっちの方が食い慣れてるだろ?≫
≪まぁ…それはそうだが。だからといって、何故今なんだ?≫
 サイトーはもちろん、パズもまたこれから作戦行動に移る直前だ。草薙に見つかったら、どやされるに違いない。
≪今を逃すといつになるか分からん。それに、今、渡したかったんだ≫
 手の中の銀色のパッケージを見つめて、サイトーはふっと笑った。
≪…生き延びろってか?≫
≪死なれちゃたまらん≫
 地獄の底のような戦場では、わずかな食料の有無が生死を決することがある。
 サイトーがこれから向かう先は、敵に見つかれば死に一番近い場所だ。
 パズの言葉の意味を悟り、サイトーはただ苦笑するしかなかった。
≪死なねぇよ。馬鹿≫
≪当たり前だ≫
 唐突に電脳内のパズの声が途切れる。
「帰ってこい」
 パズは踵を返すと、振り返ることなく部屋を出て行った。
「…あぁ」
 もう届くことのない返事を返して、サイトーは煙草とレーションをポケットに詰め込み、ポットへと乗り込んだ。



Fin



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