背中 -DEAD ZONE-



 屋上のドアを開けると、見慣れた茶色の背中が見えた。



 気配を殺す訳でもなく、靴音を立てながらゆっくりと近づく。
 そして、サイトーはその男の背後の一歩手前で歩みを止めた。

 その時間、約ひと呼吸。

 何事もなかったかのようにパズの隣に並び、サイトーは煙草を咥えた。

「…今ので俺は死んだな」

 パズは煙をすっと細く吐き出すと、ぽつりと呟いた。

「そうだな」

 サイトーもふっと煙を吐き出す。

「昨夜も徹夜で張り込みだったそうじゃないか。ボーマが仮眠室で寝てたぞ」
「あぁ」

 結局、獲物(ターゲット)は現れず、バトーとトグサのコンビに引き継いで、本部に戻ってきた。

「義体化率が高いから疲れを知らねぇんだろうが、休息は必要だ」
「そうだな」

 パズは靴底で煙草を揉み消し、携帯灰皿にしまうと、くるりと背を向けた。
 一歩、二歩、三歩。
 立ち止まり、振り向く。
 見慣れた青い背中。

「………お前を殺せる気がしねぇ」
「…だろうな」

 サイトーの肩が小さく揺れる。
 笑ったようだ。

「疲れてんだ。いいから寝ろ」
「そうする」

 去っていく薄い気配。
 ドアが閉まる音が響き、サイトーは溜め息をつくように長く煙を吐き出した。



Fin



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