Ghost in the...



 バーで酒を飲んでいると、サイトーの席から一つあけた席にカップルが座った。
 何気なくやった視線が女の顔で止まる。
(少佐?)
 女は草薙だった。
(…いや…違う)
 その女はサイトーのよく知る上官ではない。
 草薙と同じ義体を使っている別の人間だ。草薙のボディは汎用義体なので、街中で探そうと思えばいくらでも見つかる。
 草薙に似たその女はカクテルグラスを弄びながら、カウンターに置かれた男の手に指を這わせている。
 男の話に相槌を打ち、楽しそうに笑いかける。
(やはり違う)
 外見は似ていても、中身はまるで違う。
 己の内に沸き上がる違和感に酒の味まで変わってしまった気がして、サイトーは金を置いてバーを出て行った。



 サイトーが草薙に似た女に感じた違和感は、言葉にするなら『物足りなさ』だ。
「少佐は気が強ぇからな。するとサイトーはそんな女の尻に敷かれるのがいいのか?」
 まるでマゾだな、とニヤニヤ笑うのはバトーだ。
「スカされるのが分かってて、その気の強い女に粉かけてるお前に言われたくねぇよ」
「なっ…俺がいつ…」
「あら、なぁに? 随分楽しそうね」
 話題の人物の登場に、バトーの言葉が止まった。
「お前のペットたちがお前に構って欲しくてギャンギャン騒いでるのさ。うるさいから、顎の下でも撫でて静かにさせてくれ」
 二人の会話を聞いていたイシカワが、新聞から顔も上げずに言う。
「誰がペットだ!」
「やぁね。こんな大型犬、うちに置くスペースはないわ」
 ペットと揶揄した言葉を打ち消さず、しかもやんわりとバトーを拒否してみせる。
 酷い女だ、とイシカワは内心で溜め息をついた。
「サイトー」
 あなたもなの?
 赤い瞳がサイトーに無言で問いかける。
「…部下になった覚えはあるが、犬に成り下がった覚えはないな」
 道具は道具でしかない。
 義体も。銃も。
 そこに宿るゴーストがなければ、ただの鉄屑に過ぎない。
「そうでなくては困るわ」
 サイトーに死と生を一瞬にして知らしめた『兵器』が妖艶に微笑んだ。



Fin



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