Sweet Poison
色とりどりの包装紙と愛くるしい形のチョコレート菓子が、ソファに腰掛けている草薙の目の前に展開されている。
まるで菓子屋の店先のようだ、とサイトーは思った。
2月14日。バレンタインデーと呼ばれるこの日、九課の共用室で見られる恒例となった光景だ。
どこの誰が草薙にチョコレートを渡すのか、サイトーには分からない。しかし、確実に言えることは、九課所属の男性メンバーよりも数多くのチョコレートを草薙が受け取っている、ということだ。
これだけたくさんのチョコレートを消費したところで、全身義体の草薙は太ることはない。自分のセーフ・ハウスに持って帰って食べればいいものを、草薙は何故か九課の共用室で封を開ける。
草薙の謎の行動に対し、何故か課長の荒巻は何も言わず、そして誰も共用室に近づこうとしない。危険を察知する能力は九課のメンバーであれば誰でも持っているものだ。
しかし、運が悪いことに、サイトーは今日がその日であることをすっかり忘れており、うっかり共用室に踏み込んでしまった。
そして、黙々とチョコレートを消費している草薙とばっちり目が合ってしまった。
「あら。サイトー」
その口調は至ってご機嫌だ。その指先には酒瓶の形の包み紙。恐らくチョコレート・ボンボンなのだろう。もしかしたら少々酔っているのかもしれない。
「どうかしたの?」
「…そこの作業デスクに忘れ物を…」
「そう」
草薙はピンク色の銀紙を剥き、チョコレートを口に放り込む。
その後ろを通り過ぎ、デスクに置き忘れたディスクを回収すると、サイトーは足早に立ち去ろうとした。
「サイトー」
その声に、条件反射のように身体が固まる。
「はい」
「あなたはチョコレートはもらえたの?」
「俺にくれる女なんかいませんよ」
「作らないの?」
「…こんな家業ですから」
「トグサはちゃんと家庭を営んでるわよ?」
「自分とトグサは違います」
「…そうね」
草薙は箱に手を伸ばすと、チョコレートを一つ摘み上げた。
「今日は上がり?」
「えぇ」
「そう。お疲れ様」
「お先に失礼します」
どうやら何事もなく解放してもらえそうだ。
安堵して足を一歩踏み出した途端、目の前に影が舞い降りた。
「少…っ?!」
義体特有の跳躍力でサイトーの眼前に飛び出した草薙は乱暴にサイトーの襟元を掴むと、男性としては小柄なその身体を壁に叩きつけるように押し付けた。
「…っ!」
サイトーの口の中に甘いチョコレートとブランデーの香りが広がる。
硬直しているサイトーの身体を放すと、草薙はニッコリと微笑んだ。
「ホワイトデーは期待していいのかしら?」
草薙からのチョコレートが欲しいと願いながらも叶わない、義眼の元レンジャーの顔を思い浮かべ、その男が羨ましいとサイトーは心の底から思った。
Fin
攻殻機動隊バレンタイン企画出典作品 その1
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