Re:Sweet Poison



「これは何?」
 可愛らしくラッピングされた小袋を片手に、草薙は小首を傾げた。
「マシュマロです」
 それに対するサイトーは仏頂面で答えた。



 テロリズムは時を選ばない。
 それに応戦する公安9課もまた然り。
 気がつけば3月が終わろうとしており、やっと落ち着いた合間にサイトーはあることを思い出した。
 正直に言って、あまり思い出したくはない出来事だ。できるなら消し去ってしまいたい。
 けれど忘れることは許されず、サイトーは慌てて近くのデパートに駆け込んだ。
 時期を逸してしまっているので、関連商品は完全に撤廃されてしまっている。酒にしようかとも思ったが、最後まで付き合わされそうな気がして止めにした。
 あまりにも不似合いな売り場を彷徨い、サイトーはようやく一つの買い物を済ませた。
 それが草薙の手にのっているマシュマロである。

「遅くなりましたが、ホワイトデーです」
「………覚えてたの」
「えぇ…まぁ…」
 忘れたかったとは、流石に草薙には言えない。
「それで?」
「? それで、とは?」
「これだけなの?」
 赤い瞳が悪戯っぽくサイトーをじっと見つめる。
 草薙が言いたいことは分かっている。サイトーは草薙の手からマシュマロを取り上げると、黙って封を切った。
 中から真っ白な小さなマシュマロを一つ摘み上げる。
「…………………………………」
「…………………………………」
「………少佐」
「何?」
「口を開けて下さい」
「………………」
「口移しでは溶けてしまいます」
 草薙は小さく笑うと軽く口を開けた。
 その口元にマシュマロを運ぶと、草薙はサイトーをじっと見つめたままマシュマロを咥えた。
 草薙の唇が、温かく柔らかな舌先が、サイトーの生身の指先を掠める。
「お返し、確かに受け取ったわ」
 草薙はサイトーの手からマシュマロの袋を奪うように取り上げると、さっさと立ち去ってしまった。
 その後姿が見えなくなった後、サイトーは手のひらで顔を拭った。嫌な汗が手のひらにベタリと張り付く。
「………勘弁してくれ」
 草薙に右腕も切り落とされた気分だった。



Fin




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