お化けなんて怖くない



「しょく〜〜〜ん! とても興味深いものを見つけたぞ!」
「え〜?! なになに? その情報、並列化させてよ〜!」
 アームやポットをガチャガチャと鳴らし、最初に声をあげたタチコマの元に他のタチコマが集まってくる。
 1機が繋がると次々と有線していき、情報の並列化はあっという間に終わった。
「おぉ〜。これは非常に興味深いね」
「人間って本当に色んなこと思いつくね」
「これはボクたちもやってみるべき価値があるとは思わないかね?」
「さんせ〜〜〜い!」
 タチコマたちはアームを振り上げ、クルクルと回転させながら歓声を上げた。



「バトーさ〜〜〜ん!」
「おう。お前らか。どうした?」
 廊下を歩いていたバトーは後ろからタチコマに呼び止められ、歩みを止めて振り返った。小脇には新人訓練の資料を抱えている。
「Trick or Treat!」
「…あ?」
「ですから。Trick or Treatですってば!」
「…あぁ。ハロウィンか」
 そう言えばと思い起こしてみると、本部ビルへと向かう車の中から見えた車窓の景色は黒やオレンジに彩られ、カボチャや黒いトンガリ帽子が飾られていた。
 暦通りに休日を取れた試しがなく、世間とはある意味隔絶された生活リズムを送る9課メンバーにとって、この手のイベントは言われないと気付けないことが多い。家庭持ちのトグサが入ってきてからは、多少はマシになった程度だ。
 タチコマは普段からネットにつながり、他愛もない情報を入手してきては赤服たちを困らせていたりするのだが、今回はハロウィンの情報を入手してきたらしい。仮装して家々を回り、お菓子をねだる子供向けのイベントだ。
 少々唖然としているバトーを、タチコマは軽く車体を傾け、窺うように様子を見ている。そんなタチコマが何を欲しているのか分からないバトーではない。
「天然オイルを寄こせってか?」
「流石バトーさん!」
 バトーの台詞にタチコマたちは無邪気に喜び出す。その姿は人型ではないものの、子供そのものだ。
「分かったよ。ほら」
 バトーは天然オイルを取り出すと、カバーを開けたタチコマにセットした。
「わ〜い! ありがとう、バトーさん!」
「え〜! ボクたちには〜?!」
「1本しか持ってねぇよ」
「何だよ〜。結局もらえたのバトー専用機だけじゃないか!」
「いいか、お前ら。少佐には言うなよ」
「りょうか〜い!」
 バトーは自分の専用機をひと撫でするとその場を立ち去り、アイボールのセンサーがその姿が見えなくなるまで追っていた。



「Trick or Treat!」
「はぁ?」
 共用室のパソコンで報告書を作成していたトグサは、唐突に現れたタチコマたちの台詞に間の抜けた声を上げた。
「…あのなぁ。俺は暇じゃないの。仕事中なんだから邪魔するなよ」
「それは悪戯してもいいってこと?」
「人の話を聞いてないだろ、お前ら」
「だって、だって。お菓子をくれない人には悪戯していいんでしょ?」
「…あのなぁ」
 トグサは疲れ切った溜め息をついた。このところ事件続きでまともに帰宅できず、報告書の作成業務を大先輩がサボるので、そのしわ寄せが全部トグサに来ている。その上にタチコマの相手をする余裕は、今のトグサにはなかった。
「旦那に遊んでもらえばいいだろうが」
「バトーさんからは天然オイルをもらいました!」
「…旦那のヤツ。少佐にばれても知らねぇぞ」
「ねぇねぇ。トグサ君は何をくれるの〜?」
 無邪気に詰め寄る青い思考戦車に、トグサの溜め息が深くなる。
「だから。俺にはそんな暇ないんだって」
「え〜! トグサ君、自分の子供にも何もあげてないの?」
「子供にはキャンディをあげたさ」
 幼稚園で仮装パーティがあったらしい。トグサの妻が夜遅くまでかかって作った魔女の衣装を着て、トグサがあげたキャンディの包みを掲げて嬉しそうに笑っていた。
 トグサの胸ポケットにはその写真が収められている。
「ズルイよ〜。ボクたちにも何かくれたっていいじゃないか〜!」
「だからって、キャンディあげたって食べられないだろ?」
「トグサ君はボクたちへの愛情がなさすぎる!」
 そうだそうだ、と他のタチコマたちも騒ぎ出す。トグサはバトーのように機械に対して愛情を感じることはできない。しかし事態は悪化する一方で、このままでは仕事がはかどらない。
「分かった、分かった! これが終わったら車体を磨いてやるから!」
「本当に?」
「あぁ」
「約束だよ?」
「約束するよ」
「嘘つくと針千本飲むんだよ?」
「違うよ〜。ハリセンボンだよ」
「どっちでもいいよ。いいから早く出ていけ」
「約束したからね〜」
「はいはい」
 賑やかな音が共用室から出て行き、静寂を取り戻した室内に疲れた溜め息の音が微かに響いた。








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