モニタリング



 呼ばれてやってきた会議室では、草薙が何やら機器を弄っていた。
 サイトーがドアを閉めると、気配に気づいた草薙が振り向く。
「ここ最近、アダルト・ソフトに偽装した新手の電脳麻薬が出回っている。売り上げはセクトの資金源となっているらしい」
 ここ数日、パズとボーマの姿を見かけることがなかったが、この捜査で出ていたのだろう。
 サイトーは頷いて、理解の意を表した。
「今、赤服とイシカワがソフトを詳しく分析しているが、生体でのモニタリング・データを取りたい」
「…俺にモルモットになれと?」
 9課の中では、トグサと課長に次いで義体化率の低いサイトーだ。
 軍隊という組織の中で揉まれ、鍛えられた精神力と肉体がモニターに適していると判断されたのだろう。
「モニタリングと分析を同時にやるから、危険なようなら止めるわ」
「了解」
 本当に危険なものならば草薙がモニターをさせるはずもない。
 サイトーは椅子に腰を下ろし、機器から伸びているコードを接続すると、腕を組んで目を閉じた。



 艶かしいピンクの世界に、一人の裸婦が現れた。
(オペレーターかよ)
 オペレーターとは違うものなのだろうが、万人に好まれる顔立ちを造形すると、どうしてもこの手の顔になってしまうらしい。
(これに盛れってのか?)
 職場の女型アンドロイドを見慣れてるサイトーにとっては滑稽でしかなかった。これに欲情しろと言われても無理な話だ。
 女は細く白い腕をサイトーの身体に伸ばす。
 ヴァーチャルの手のひらや唇がサイトーの肌を滑る感触を、ソフトが電脳に送り込んでくる。
(くすぐってぇな)
 その程度の感想しか浮かんでこない。
 そんなサイトーの様子を、すぐ隣りで草薙がモニターしているはずだ。そう思うとなおさら白けてしまって、そんな気分にはなれなかった。
 無反応のサイトーに焦れたように、女は細い指をそこに絡めてきた。
「っ!」
 流石のサイトーも一瞬だけ息を詰める。
 ゆるゆると扱かれ、ビリビリとした感覚が電脳に伝わってくる。
(………足りねぇ)
 これで盛るには刺激が弱すぎる。もっと強い力で責め立てるような愛撫でなくては物足りない。
 女の唇がそれを咥え込む。
 だが、それでも足りない。
(これでイくなんざ無理だろ)
 サイトーはいい加減飽きてきた。
 女がそれを咥えたまま、上目遣いにサイトーを見る。
「っ!!!」
 その顔が見知ったあの男の顔に見えた。
 サイトーのそこが敏感に反応する。
(何でだ?!)
 オペレーターと似ても似つかない顔なのに。何故あいつに見える。
(…まずい…!)
 サイトーの様子が変わったことは、モニターしている草薙も分かっただろう。
 きっかけについて聞かれても、応えようがない。
(落ち着け…!)
 電脳麻薬が含まれている可能性があるとしても、これはただのアダルト・ソフト。所詮はオモチャだ。
 呼吸を整え、狙撃ライフルのスコープを覗くように感覚を細く絞る。
 その後、幻の女が何をしようと、サイトーが反応することはなかった。







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