Packaged Love
サイトーが地下の射撃訓練場から上がってくると、エレベーターホールは何やら賑わっていた。
バトー、トグサ、イシカワをメインに、そのそばでプロトが三人を見守っている。
「何だ。ずいぶんと賑やかだな」
「お、サイトー。お前もいるか? ほれ」
「あ?」
バトーから投げ渡されたのは、古典絵画『ヴィーナスの誕生』が描かれた小さな箱だった。とても軽く、振ってみるとカサカサと音がする。
「何だこれ?」
「ゴムだよ、ゴム。コンドーム」
「あ?」
「聞き込み先の店先で無料配布しててさ。バトーが面白がって大量にもらってきちゃったんだよ」
正確にいうと、興味津々に近づいてきたバトーの顔相と巨躯に恐れをなした店員が、手に提げていたカゴごとバトーに押し付けて脱兎の如く逃走した、というのが真相だ。
「お前も使うだろ? サイトー」
「まぁ…使わんことはないな」
「お前も持って帰って、カミさんと使えよ」
「うちはこの前二人目が生まれたばかりだぜ?」
「何だぁ? 子供が生まれた途端セックスレスかぁ? 寂しい夫婦関係だな」
「そんなんじゃねぇって。今時期の子育てが一番大変なんだよ。ただでさえ家のこと任せきりだってのに、子育てで疲れてるあいつにそんなことできるかよ」
本気で怒り出した愛妻家をイシカワが横から宥める。
「まぁまぁ許してやれよ、トグサ。バトーは使い道がないんで、お前に嫉妬してんだよ」
「なっ! 俺だって…」
「へぇ。旦那、少佐と寝ることあんの?」
ここぞとばかり反撃に出たトグサの台詞に、バトーの顔が固まった。
「何でここに少佐が出てくんだよ!」
そんな言わずもがなな言葉に、二人はニヤニヤと笑い返すだけだ。意味が分かっていないプロトはきょとんとしているが、サイトーはポーカーフェイスの下で笑ってるのが明白だ。
「そうだよなぁ。お前に少佐を誘う度胸はねぇよなぁ」
「だから! 何で俺が少佐を誘わなきゃなんねぇんだよ!」
「旦那。報告書にさり気なく挟んで、少佐に提出するってのは?」
「んなことやったら、殺されるのがオチだろうが! だから、何で少佐…」
「バトーさんは少佐のことがお好きなのですか?」
プロトのまったく悪意のない純粋な質問に、バトーが音を立てて固まった。
「『好き』という感情を、ゴーストのない僕は理解することができません」
「………プロト」
ゴーストのないバイオロイドには感情もない。しかし、その表情はとても寂しげで、バトーはそっとプロトの手を取った。
「理解できなくても、覚えりゃいいじゃねぇか」
「? どうやってですか?」
「それは百戦錬磨のオジイが手取り足取り教えてくれるってよ。なぁ、イシカワ?」
「な?!」
奇襲で反撃されたことを悟り、イシカワが目を剥く。
「本当ですか、イシカワさん!」
「待て待て待て待て」
「それにはコイツが必要だろう? 持ってけよ」
「ありがとうございます」
プロトの手にはいつの間にかコンドームの箱が握られている。バトーがプロトの手を取った時に押し付けたものだ。
「バトー…テメェ」
苦笑いを浮かべているトグサが仲裁に入っているが、場は混乱するばかりだ。
それを眺めているのにも飽きてきて、サイトーは何も言わずその場から立ち去った。
その手にはコンドームの箱が握られている。使う機会は少ないが、持っていた方がいいだろう。しかし箱のままではかさばるので、中身だけを取り出して財布の札入れに挟み、箱はゴミ箱に廃棄した。
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