シャワーを浴びてロッカールームで着替えていると、パズが入ってきた。
「よぉ、お疲れ」
「おう」
サイトーに気づいたパズは手に提げていたコンビニの袋をサイトーに差し出した。
「頼まれてた煙草」
「おう。悪いな」
煙草の自動販売機ならこのビル内にもあるが、カートンで買うとなると外に行くしかない。
外回りから一旦戻るというパズの報告を聞いたサイトーは、切れ掛かっていた煙草の買出しをパズに頼んでいたのだ。
「金、今渡していいか?」
「あぁ」
サイトーは財布を取り出すと紙幣を抜き取った。そこから何かがポロリと床に落ちる。
「…あ」
サイトーよりも機敏に反応したパズがそれを拾い上げ、ニヤニヤと笑った。
「古典的な持ち歩き方だな」
「さっきバトーからもらったんだよ」
シャワーを浴びる前、バトーに押し付けられたコンドームだ。
「聞き込み先で大量にもらってきたんだと」
「ふ〜ん」
パズはパッケージされたコンドームをしげしげと眺めていたが、何を思ったのかサイトーには返さず、自分のポケットにしまった。
「…おい」
「いいだろ別に」
使う頻度としてはサイトーよりもパズの方が格段に高い。だからパズが持っていた方がいいのだろうが。
「必要ならバトーにもらってくればいいじゃねぇか」
「そうじゃねぇよ」
パズが指先でこめかみを叩く。サイトーは暗号通信の回線を開いた。
≪どうせ俺がお前に使うんだ。俺が持ってってもいいだろう?≫
≪なっ?!≫
≪生でヤりたいのか?≫
≪んな訳あるか!≫
≪足りなきゃ、バトーからもらってくるよ≫
≪………お前、俺を殺す気か?≫
≪お前が非番に入る前の夜なら構わないだろ? そういや、お前明日非番だったな。今夜空けとけ≫
≪人の予定を勝手に決めるな!≫
≪空いてねぇのか?≫
≪………空いてるけど………≫
≪なら決まりだな≫
パズはひらひらと手を振ると、ロッカールームから出て行ってしまった。
「………勝手な………」
忌々しげに呟き、手の中の存在をやっと思い出す。
「…あ」
結局サイトーはパズに煙草の代金を渡しそびれていた。
≪ ≫
P×S menuへ/
text menuへ/
topへ