Bitter ≒ Sweet



 仕事も終わり、地下駐車場に止まっている車の助手席に乗り込む。
「悪い。遅くなった」
「構わん」
 運転席で煙草を吹かしていたパズは平べったい箱をサイトーへと差し出した。
「やる」
「何だ?」
 黒い包装紙に包まれたその箱は、この時期の菓子屋の店先でよく見かけるものと似ている。
「バレンタインのチョコか。女からのもらい物か?」
「いや」
「女からもらったものを横流しかよ。こういうものはお返しをちゃんとしないと、また女から恨まれるぞ」
「違う」
「お前が女からもらうチョコレートなんて、どうせ毒入りじゃねぇのか? 責任を持って、お前が箱ごと食えよ」
「だから違うと言ってるだろ」
 パズは煙草を灰皿でもみ消すと、車を発進させた。
 パズが車を走らせ始めてしまったので、チョコレートの箱を返しそびれてしまった。
 サイトーは手持ち無沙汰に、その箱を弄ぶ。
「………そういうお前はもらったのか?」
「あ?」
「チョコレートだよ」
「…あぁ」
 サイトーはジャンパーのポケットを探ると、小さな小さな赤い箱を取り出した。
 大きさは3センチ四方にも満たない。恐らく小さなチョコレートが1つだけ納まっているのだろう。
 しかもその包装は店でやるようなきちんとしたものではなく、素人臭さが嫌でも目に付く代物だった。
「………お前が女からもらったのか?」
 パズの台詞には微かな驚きのトーンが含まれている。
「俺がもらっちゃ悪いのかよ」
 その声色にサイトーはムッとしたように応えた。
「…少佐からか?」
「…恐ろしいことを言うな…!」
 それはサイトーにとって、焼き切ってしまいたいほどの恐怖の記憶でしかない。
 口に出すのも憚られる。
「じゃあ誰だ?」
「お前に言う必要はねぇだろ」
「…そうだな」
 そう呟くと、パズは急にハンドルを切った。
「っ! 何だよ、急に?」
「予定変更だ。お前のセーフじゃなく、俺のセーフに行く」
「何だよ、それ…」
 しかし、抗議をしたところでハンドルを握っているのはパズで、走っている車から飛び降りる訳にもいかない。
「…ったく、勝手にしろよ」
 サイトーはムッとしたまま窓の外に目を向け、黙り込んだ。



 たどり着いた場所はサイトーの知らない場所だった。
 左腕を掴まれ、まるで連行されるようにパズの部屋へと引きずられていく。
「おい! 何だよ? パズ!」
 廊下に木霊するサイトーの抗議にも、パズは意も介さない。
 セキュリティを解除して中へと入り、靴を脱ぐのも脱がせるのももどかしげに、サイトーの身体を抱え上げて寝室へと運ぶ。
「…おいっ!」
 どんなに暴れても義体の出力に生身の力が叶うはずもなく。
 ベッドの上に落とされて、やっと解放されたと思ったら、義体化率の高い重い身体に組み敷かれて動けなくなってしまった。
「パズ…! テメェ、何しやがる!」
「『勝手にしろ』と言ったのはお前だろ?」
 サイトーの動きを片手で封じたまま、空いた片手でチョコレートの封を乱暴にはがす。
 摘み出したチョコレートを自分の口の中に放り込むと、そのままサイトーの口を塞いだ。
「うっ…、く………ん」
 口いっぱいに広がるビターチョコレートの香り。
 その香りとともに、逃げるサイトーの舌を吸い上げる。
 サイトーがチョコレートを嚥下したのを確認すると、パズは再びチョコレートを自分の口に放り込み、サイトーの口を塞ぐ。
 箱からチョコレートがなくなるまでその行為は繰り返され。
 そして、パズは甘く溶けたサイトーを心ゆくまで堪能した。







P×S menuへtext menuへtopへ