Automatic
いつもように飲みに誘われて、パズの後を付いてきてみれば、そこは初めてくる場所だった。
「…プール・バーか…」
広々とした店内に3台のビリヤード台が置かれ、数人の男女が酒を飲みながらビリヤードをプレイしている。
パズはカウンターの前に立つと、近くにいたバーテンダーを手招きした。
「サイトー。酒はいつものでいいか?」
「ん? あぁ」
パズが囁くような声で注文すると、バーテンダーは頷いて2人から離れていった。
サイトーはカウンターに寄りかかったまま、店内を見渡した。
うまくポケットできたのか、女性客が手を叩きながら歓声を上げる。
「賑やかな店だな」
ボーマから、パズがよくプール・バーに行くことを聞いている。ボーマもビリヤードが好きらしく、2人で連れ立って行くことが多いようだ。
しかし、パズは普段が寡黙なだけに、こういった賑やかな店に来ることがサイトーには意外だった。
「お待たせしました」
バーテンダーがウィスキーのボトルとロックアイス入りのアイスペール、2つのグラスが乗ったトレーをパズの前に差し出した。
「3号室です」
「どうも」
パズはバーテンダーにチップを差し出すと、トレーを持ち上げた。
「サイトー。こっちだ」
流れが読めず、言われるがままについていく。
「この部屋だ。開けてくれ」
両手が塞がっているパズに代わり、指し示されたドアを開くと、小さな部屋の中央に重厚なビリヤード台が備え付けられてあった。
「個室か…」
「この方が落ち着くだろ?」
あまり喧騒を好まないサイトーに気を遣ったのか、パズが予め押さえていたようだ。
「しかし、俺でよかったのか?」
「何がだ?」
「いつもはボーマと来るんだろ? 俺はビリヤードなんてやったことねぇぞ?」
「ボーマは今夜は用事があるそうだ。それに何事も経験だ。俺が教えてやるよ」
パズはサイトーにウィスキーのグラスを手渡すと、ボールをラックし始めた。
「初心者向けに『9ボール』といこう。一番シンプルで分かりやすい」
9番までのボールをトライアングル内で菱形にセットする。
「1番のボールを頂点に、9番を中央に。その他は適当に並べてフットスポットにセットする。ヘッドスポットのライン上から手球を撞いてブレイク。この時1番のボールに当てないとファールだ」
パズはヘッドスポットに置いた白い球を勢いよく撞くと、まっすぐに飛んだ球が軽快な音とともに色とりどりのボールを散らした。
「後は一番小さい番号の球から落としていき、最終的に9番の球を落とした方が勝ちだ。最小番号の球に当てられなかったり、別の球に当ててしまった時はファールとなり、相手と交代になる」
パズは説明しながら、手際よく次々にボールをポケットしていく。そして最後に残った9番の球も難なくコーナーのポケットに落とした。
「大体こんな感じだ。後の細かいルールは検索でもかけろ」
「話には聞いてはいたが、上手いもんだな」
サイトーは感嘆の溜め息を漏らした。
「どうだ? どうせなら賭けないか?」
「お前を相手に負けるのが分かっててか?」
「分からないだろ。ビギナーズ・ラックって言葉もある。それに狙撃の上手いお前なら、コツさえ掴めばビリヤードも上手くこなせると思うんだがな」
「狙撃とビリヤードは違うだろ」
「そうか? 1ミリのずれも許されない、的を絞る緊張感は似てると思うが」
パズはボールをラックしなおすと、キューをサイトーに差し出した。
「練習する猶予はやるよ。乗るか反るかはそれから決めればいい」
サイトーは軽く肩をすくめると、グラスをパズに差出し、代わりにキューを受け取った。
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