ゴーストの隙間に



「あ〜ふ…」
 朝も明けきらぬ時間帯。公安9課本部の廊下をサイトーは歩いていた。
 ダイブルームの前を通りかかると、開いたドアから欠伸をしながらトグサが出てきた。
 徹夜したのか、疲労困憊といった態のトグサの目は真っ赤に充血している。
「あ、サイト………」
 サイトーに気付いたトグサの呼びかけは、またしても欠伸にかき消された。
「徹夜明けか? トグサ」
「うん。二徹明け」
「そいつはご苦労さん」
 子煩悩なマイホームパパであるサイトーの同僚は、この大型連休に休暇を獲得するべく奮闘しているのだと聞いていた。
 つい最近見せてもらった携帯端末の待ち受け画面は、お手製のこいのぼりを手に笑う娘の画像だった。学校で作ったのだという。
 その後ろには下の子のために散々悩んで購入した端午の節句の飾りが鎮座している。
 すべては愛する家族のためだ。
 全身をサイボーグ化した上官や相棒を持ちながら、生身の身体でよく頑張るとサイトーは常日頃から感心している。
「サイトーも張り込みで徹夜だったんだろ?」
「あぁ」
「どんな調子?」
「対象が現れる気配はまだないな。少佐に引き継いできたんだが…」
「少佐が?」
「何か思うところがあるようだ。案外、少佐の監視中に対象が現れるかもな」
「あぁ…それはありえそうだ」
 数日にわたり対象を監視していたサイトーのもとにふらりと現れた草薙は、「交代だ」と簡単に告げて、サイトーを部屋から追い出してしまった。
 彼女のゴーストが何かを囁いたのだろう。
 サイトーは草薙の『命令』に素直に従い本部に戻ってきた。
「サイトーも仮眠室?」
「いや。俺はこのまま上がるつもりだ」
「大丈夫なのか?」
「あぁ。持久戦には慣れてる」
「すごいな」
 トグサは感嘆の溜息をもらした。
「俺も刑事だった頃は張り込みとかしょっちゅうだったし、体力にはそれなりに自信があったんだけどなぁ…。サイトーを見てると自信が揺らぐよ」
「軍人と刑事じゃあ、鍛え方とその意義も違うだろ。お前はよくやってると思うがな」
「…そうかな…」
 トグサは少し照れたように後ろ頭を掻いた。
「トグサは仮眠をとってから帰るのか?」
「あぁ。カミさんから柏餅を頼まれてるんだ。和菓子屋が開く時間まで寝てるよ」
「そうか」
「お疲れ。気をつけて帰れよ」
「お前もな」
 トグサは軽く手を挙げると、仮眠室の方へと歩いて行った。
 その背中を見送り、サイトーはエレベーターホールへと向かった。地下の駐車場に下り、車に乗り込む。
 途中にあるコンビニで酒と食料を調達し、セーフハウスに辿りついた。
 玄関先にコンビニの袋を置き、靴を脱ぎ捨てる。
 シャワーは本部で浴びてきた。着替えるのも億劫で、サイトーはシャツを脱ぎ捨てるとそのままベッドに倒れこみ、身体が欲するままに眠りに身を任せた。







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