サイトーが目を開けると、ベッドサイドの時計は昼過ぎを示していた。
 改めて自分の身に目をやれば、皮のパンツははいたまま、上半身は裸で布団も掛けていない。この程度で風邪をひくほど軟ではないのだが。
 枕の下に潜り込ませた手にはセブロが握られている。この辺は殆ど本能といってもいいだろう。
 サイトーはセブロをサイドテーブルに置くと玄関に向かった。案の定、コンビニの袋がそのまま放置されている。
 サイトーはトグサほど表面に出ないだけで、トグサと同じくひどい疲労感を覚えていたのだ。
 身体を義体化することは考えていないが、少しばかり羨ましく感じるのも事実だ。
 サイトーはコンビニの袋を取り上げると、キッチンへと向かった。
 すぐに腐ってしまうようなものは買っていない。あっても出来合いのサラダぐらいで、サイトーはそれらを無造作に冷蔵庫の中に仕舞い込んだ。
「………ん?」
 袋の底から取り出した酒瓶に、サイトーは軽く目を見張った。
 サイトーが好んで口にする銘柄と違う種類のウイスキーだ。
「………………………………」
 サイトーは眼力で瓶を割る勢いでそれを睨みつけた。
 サイトーは確かに疲れ切っていた。そこまでは認めてもいい。
 しかし、違う銘柄を購入してしまうほど判断力は衰えていないつもりだった。
「………クソ………っ!」
 忌々しげに呟く以外、この感情の持っていく所が見つからない。
 無意識なのか。無自覚なのか。
 サイトーのゴーストの隙間に入り込んだものが、サイトーにこれを買わせたのだ。
≪起きたか? サイトー≫
 酒瓶を手にキッチンでしゃがみこんでいるサイトーのもとに電通が届いた。
 サイトーがいたポイントとは別の場所で張り込みを続けているパズからだ。
≪あぁ。さっき起きたところだ。対象に動きがあったのか?≫
≪対象は少佐が確保した。後で少佐か課長から連絡がいくとは思うが、お前はそのまま今夜は休みになりそうだ≫
≪そうか≫
≪だから、サイトー。今夜、お前のセーフに行ってもいいか?≫
 しばしの沈黙。
≪サイトー?≫
 やがて機械的な電子音が焦れたような気配を乗せて、サイトーの電脳内に響いた。
≪…好きにしろ。お前が好きな酒なら用意してある≫
≪気が効くな。どんな風の吹き回しだ?≫
≪さぁな≫
≪…上がる時にまた連絡する≫
≪あぁ≫
 電脳内からパズのイメージ画像と合成音声が消え、再び静寂が訪れた。
 サイトーは立ち上がると、パズお気に入りのウイスキーの酒瓶をテーブルの真ん中に置き、キッチンから出て行った。



Fin







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