Arms
パズが共用室の階段を下りると、トグサがソファに座っていた。他には誰もいない。
トグサはソファに浅く腰かけ、屈みこむように何かをしている。後ろからそっと覗きこむと愛銃であるマテバを分解しているところだった。メンテナンスしているようだ。よほど集中しているのか、トグサはパズの気配に一向に気がつかない。
バレルの中の煤を払い、クリーニング液でシリンダーを磨く。リボルバーは発射機構が単純なためばらせるパーツも少なく、パズが黙って見守る中、トグサの銃のメンテナンスはあっという間に終わった。
組み上げた銃に弾を込めずに構える。銃口を左右に振って具合を確かめると、トグサは立ち上がり様に振り向いた。
「うわぁっ!!!」
盛大に声を上げて、照準をパズの胸元から反らす。勢いをつけて立ち上がったこともあり、トグサは尻もちをつきかけ何とか踏みとどまった。
「パズ?! いつからそこに?」
「お前が銃をばらしてる辺りからだ」
「声をかけてくれりゃあいいのに」
「集中してるようだから、邪魔しちゃ悪いと思ってな。驚かして悪かった」
「いや。こちらこそ」
トグサの謝罪は必要以上に驚いたことなのか。それともパズに銃口を向けてしまったことなのか。恐らくは両方なのだろう。
「銃のメンテナンスか?」
「あぁ。手が空いてる時にやっておかないと…」
トグサはソファに座り直すと、ローダーで弾薬をセットした。そして、空になったローダーに新しい弾をセットし始めた。
「…ローダーはいくつ持ち歩いてんだ?」
「二つ、かな。………何? 少ないって?」
「いや、無難だろう。それ以上持ち歩いても嵩張るだけだ」
「そうなんだよなぁ。ローダーをいくつも入れてるとポケットが妙に膨らんで、見た目が不自然になっちまうんだよなぁ」
結局は装弾数が多いセブロを持ち歩けってことなんだろうけど、とトグサはぼやくように呟いた。
「…トグサ」
「何?」
「持ってみてもいいか?」
「持ってみてもって………これ?」
トグサがマテバを掲げてみせると、パズは小さく頷いた。
「あぁ」
「別にいいけど」
トグサは手の中で器用に銃をくるりと回すと、グリップをパズに差し出した。
パズはマテバを受取ると、手に軽く力を込めてセブロとは違うグリップの感触を確かめた。そしてそのまま片手でマテバを構える。
照準の先に見えるのは共用室の無機質な壁。しかし、ほんの少し横にずらせば、無防備なトグサがいる。しかもシリンダーには実弾が込められ、安全装置は解除されたままだ。
「ありがとよ」
トグサと同じように手の中でマテバを回転させ、グリップをトグサに差し出すと、トグサが不思議そうな表情でパズを見つめていた。
「…何だ?」
「リボルバーを構えているパズを見るの初めてかも…」
「だろうな」
パズはトグサように銃にこだわりはなく、9課で支給されているセブロをそのまま使用している。リボルバー式の銃を使用する機会など、余程のことがない限り皆無に等しい。
「何て言うか、その…」
「『似合わない』」
トグサが言い淀んだ台詞を奪うように、パズはきっぱりとした口調で言い放つと、トグサはバツが悪そうな表情を見せた。
「『似合わない』んじゃなくて、『見慣れない』だけだよ」
言い訳じみたトグサの台詞に、パズは自嘲するように小さく笑った。
「間違ってねぇよ。『似合わない』で合ってる」
例えば『家族』。
例えば『正義』。
トグサのマテバはそれらを『守る』ための『武器』だ。
パズに似合うはずもない。
≫
P×S menu vol.2へ/
text menuへ/
topへ