仕事に関してもそうだが、手続きというのは大概面倒なもので。
 パズの場合はサイトーを引っ掛けるのに少々手間が掛かる。
 これが女の場合は目配せするだけでついてくるので面倒はなくていいのだが、その分飽きるのも早い。
 サイトーの場合は手続きが面倒な上に、身柄の確保率がとても低い。
 この日はサイトーが好む酒もつまみも用意していなかったので、代わりにナイフを突きつけてみた。
 相手が同僚だろうが、セフレだろうが、凶器には銃口で応えるのがサイトーという男。
 ある意味命がけの口説き文句が興に入ったのか、サイトーはパズの誘いにのり、パズは手に入れた貴重な獲物と休息を存分に愉しむ権利を手に入れた。



 右手を噛んで声を殺そうとするので、風呂上りに使ったタオルでサイトーの右腕をベッドヘッドの柱に括りつけた。
「馬鹿野郎! 痕になったらどうする! 右は生身なんだぞ」
「そのために左を空けてある。嫌なら左で外せ」
 早速右腕に伸びた左腕を掴んでシーツに縫いつけ、ガラ空きになった裸体に貪り付く。
「パズ!」
「黙れ」
 左さえ押さえてしまえば、サイトーはパズには敵わない。
 それに灯り始めた熱がサイトーの力を奪い、パズが左手を放しても、その手が右手に伸びることはなかった。



 息が上がり、汗が吹き出る。
 生身の粘膜を傷つけないために塗られたジェルが厭らしい音を立ててサイトーを更に追い上げる。
 縛られた右腕が痛みを訴えるが、それはすでに快楽への更なる助長に過ぎず、もうすでに痛々しい痕になっていることだろう。
 それでも右手の拘束を外せないのは、せり上がる声を押し殺すのに左手を使わなければならないからだ。
「…はっ…! パズ…っ! てめ…いい加減に…あ!」
 パズは舌でサイトーの表皮を辿りながら、その指で熱い内部を掻き回している。しかもサイトーが感じる場所をわざと外して。
 普段は辛抱強いサイトーでも限界にきていた。痛みは耐えられる。しかし、この手の悦楽には慣れていない。
 男ばかりの軍隊の中に傭兵としていれば、男との行為も少なからず経験する。しかし、手早く抜いて終わるのが通例だ。ここまでしつこいのはあまり経験がない。
≪パズ。てめぇ、女にもこんなことしてるのか?!≫
 口では言葉にならないので、電通で文句を叩きつける。
「いや。慣らして挿れて出して終わりだ。焦らしすぎると逆ギレされる。…何だ? 女と同じように扱って欲しいのか?」
「ふざけ…あっ!」
 サイトーの台詞を塞ぐように、パズの指先がそこを掠める。
 パズの指は緩慢にそこを出入りするだけで、サイトーは強請るに腰を揺らしてしまう。
「パ…ズっ! 早く…っ!」
「『入れて下さい』」
「…あ…?」
「言えたら入れてやる」
「ふ…ざけんなっ!」
 サイトーの悪態にパズは小さく哂っただけだった。
 サイトーの内部から指を引き抜くと、ジェルを指にとってまた入れる。わざと音を立てるようにかき回しながら、上体を起こしてきつく目を閉じて震えているサイトーを眺める。
 そんなことを繰り返され、ついに耐え切れなくなったサイトーは左手を自身に伸ばした。しかしその手を再び捕まれてしまう。
「パズっ!」
「何だ?」
 返る声も態度も冷めていて、指先だけが熱心に動いている。
「くそ…っ! も…イかせろよ…っ!」
「……………………」
「おい…っ! てめぇっ! パズ!」
「……………………」
「あ…も…っ! くそ…たれっ!」
「……………………」
「ちくしょ…っ! 後、で…覚えとけ………あぅっ!」
「楽しみにしてる」
 そして、やっとサイトーはパズが望む言葉を吐き出した。



  



P×S menu(R18)へtext menuへtopへ