銃とナイフ
酒に酔っていたわけではない。
それは相手も同じこと。
「サイトー。俺と寝てみないか?」
「…あぁ。別に構わねぇ」
相手に興味があった。
ただそれだけだ。
サイトーは普段からストイックだとからかわれる。
サイトー自身はまったくそのつもりはない。ほぼ生身の上、健康にまったく支障はないので人並みに性欲は沸く。
ただ、その生身であることと職業上に問題があるのだ。
サイトーには特定の相手はいない。寝るとなると、その手の商売をしている女が相手であることが多い。
まず真っ先に回避しなければならないのは感染症による疾患。罹るなどは論外だ。
その問題がないサイボーグの女ならいいのかというと、それはそれでまた別の問題がある。
外見は汎用義体でも、中身は非合法パーツの見本市という女サイボーグがサイトーのすぐそばにいる。そんな女が相手では、文字通り丸腰では話にならない。相手に殺意があればすぐに殺されてしまう。
その手の心配のない所謂『素人』の女性たちは、戦闘職種特有のサイトーの剣呑な空気を敬遠して近寄ってこない。また、サイトーもそういった女を口説けるほど口が達者な方ではない。
それらの理由が重なって、溜まれば自分で抜く癖が自然とついただけの話だ。
そして、そんなサイトーとは真逆ともいえる位置にいるのがパズだった。
細い体躯のその男は、見かけによらず義体化率が高い。戦闘中の仕草からも、それはうかがい知れた。
仕事でもプライベートでもパズとよくつるんでいるボーマから、パズの漁色ぶりは噂程度に聞いていた。
ボーマから見ているパズは、ただ酒を飲み、煙草を吸い、ビリヤードのキューを突く。特に何かしているわけでない。
けれど女性たちがまるで引き寄せられるようにパズに寄ってくるという。
「電脳をハッキングしてんじゃねぇのか?」
「そんな様子はないな」
大きな体躯に似合わず電脳戦も得意とする男が言い切るのだから、実際その通りなのだろう。
だが、パズの何が女性たちをそんなにも引き寄せるのか、サイトーには分からない。
「でもなぁ。あれじゃあ、いつか刺されるんじゃないか」
呆れたようにボーマは呟いたが、それすらもパズは愉しんでいるのではないかとサイトーは思う。
そんなある日。サイトーはパズと聞き込み調査を一緒に行うことになった。
パズの相棒を務めているボーマは、イシカワとダイブルームに篭りきりなのだという。
パズの運転で行き着いた先は所謂ネオン街の裏道だった。
こういった場所には脛に傷を持つ者が多く潜んでいる。そういった相手を必要以上に刺激しないよう、サイトーは極力気配を消すように努めた。
人ごみの中、目的の場所を探して歩く過程で、サイトーはふと隣りの男に目をやった。
パズはサイトーとは違い、まったく気配を消していない。それどころか色街の空気に溶け込んでいて、違和感がない。
そこに居るのが当たり前のように存在し、まったく警戒心を抱かせない。
(…なるほど。これが潜入捜査のプロか)
サイトーは感嘆し、そして納得した。
パズが女を引き寄せるのは、パズが纏うこの空気のためだろう。どんな場所だろうと自然に入り込める。自分の隣りに違和感なく溶け込む男の気配に、女たちは安堵するのだろう。
もしこの男とポーカーで勝負したら、勝負の緊迫した空気にすら溶け込んだ男の手の内が、自分には読めるだろうか。
恐らく負けはしないだろうが、多分勝てもしない。
サイトーはそう思った。
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