そんな男と飲みに行き、ある意味異様とも思える誘いを受けた。
パズが男もイケると知って内心驚いたが、ポーカーのカードで相手を探るより、もっと愉しめそうな予感がした。
つれてこられた先はパズのセーフハウスで、埃とカビのすえた空気から、普段あまり使っていないことがうかがえた。
「シャワーを先に使え」
クローゼットから顔を出したパズにバスタオルを投げ渡され、バスルームの場所を指示される。
サイトーがシャワーを浴びている間に、埃っぽい部屋を少しでも掃除するつもりでいるらしい。
「面倒くせぇ。風呂でヤればいいだろ」
「んな時間はかからねぇよ。すぐに行くから先に入ってろ」
「分かった」
バスルームにも生活感はなく、ビジネスホテルのようだった。
シャワーを出して頭から浴びる。女のように気取るつもりはないが、初めて肌に触れる相手ではあるので、ある程度は身奇麗にしておく必要はあるだろう。
石鹸を手にとって肌を擦っていると、パズが入ってきた。
(…なるほどな…)
肉付きは薄いながらも、均整のとれた身体はナイフのようで、女なら見惚れてしまうに違いない。
実際、サイトーもほんの少しの間だが、パズの身体に見入ってしまった。
「どうした? 義体が珍しい訳じゃあるまい?」
「まぁ、そうなんだが…」
パズとは九課のシャワールームで何度も鉢合わせしている。だが相手の身体を観察するほどの余裕はない。
パズの身体をじっくり見るのはこれが初めてだった。
「…サイトー。男と寝た経験は?」
「なくはない」
「だろうな」
そう言いながらパズは下を指差した。サイトーも視線を下にやり、ぎょっとする。
「もう勃ってる」
サイトーは自分の身体が信じられなかった。身体を洗っていた時はこんなではなかった。
いったいいつからこうなっていた? パズがバスルームに入ってきた時からか?
(俺はパズに欲情している?)
いくら『寝る』と宣言されたからといって、まだ触れられてもいないのに。
「溜まってんのか?」
「…うるせぇ」
馬鹿にされたような気がして、サイトーは少しばかりムッとした。
「触るぞ?」
「あぁ」
パズの手がサイトーのモノを掴み、サイトーは息を飲んだ。サイトーもパズのモノに手を伸ばす。
「…はっ」
パズが息を吐く声が間近で聞こえ、口が塞がれた。手を動かしながら、貪るようにキスをする。
(こいつ…上手い)
女との経験は数え切れないほどあるのだろう。パズの口付けはサイトーの脳幹を痺れさせた。
そんなパズが男とも寝るとは思わなかったが、サイトーを追い上げる手つきから慣れていることが分かる。
より深く口付ける振りをしてパズの首に腕を回し、膝から崩れそうな身体を支える。
荒い息遣いをシャワーの音がかき消す。
「ふ…っ!」
サイトーはパズの手の中で達していた。白濁した粘液はシャワーで流され、排水口の中へと消える。
「早いな。やっぱり溜まってたんじゃねぇか」
「…お前は感覚器官を切ってるんじゃねぇのか?」
「切ってたらこんなにならねぇよ」
負け惜しみで言い放つと、パズは硬度を保っている己自身をサイトーの手に擦り付けた。
「腕が疲れた。左に変えていいか?」
「ダメだ」
即断で却下しながらも、パズはサイトーの手を引き剥がした。
「サイトー。後ろ向け」
「あ?」
「慣らさなきゃ痛いだろう?」
シャワーの水温は変わっていないはずなのに、急に身体が冷えた気がした。
「…お前、俺に突っ込む気か?」
「お前が俺に入れたかったのか?」
「そうじゃねぇ」
サイトーは『寝る』と言っても、抜くだけのつもりだったのだ。
従軍時代、男ばかりの空間で性欲を処理しようとすれば自分で抜くか、気の合った相手を見つけて抜きあったりもした。
いつ敵襲があるか分からない状況では、セックスを愉しむ余裕などないに等しい。
一度だけ、義体化率の高い男たちに集団で抑え込まれ、大して慣らされてもいないところに突っ込まれたことがあった。
それは痛みと屈辱だけの経験だった。
もちろん、サイトーがそんな状況を甘んじて受けるはずもなく、後日報復として一人ずつ丁寧に潰してやったのは言うまでもない。
その噂が尾ひれをつけて水面下で広がり、それからサイトーに手を出そうとする不埒な輩はいなくなった。
サイトーの男との経験はその程度のものだ。
「何だ? 今更嫌だとか言うつもりなのか?」
「そうじゃねぇ。…そうじゃねぇが…」
パズは無理に身体を開くような男ではないだろう。しかし、身体は意思に反して不自然に強張る。
「嫌じゃねぇなら、ベッドに行くぞ」
ここでしないのは、サイトーの覚悟を見定めるつもりなのだろう。
そして、売られた喧嘩を買わずに逃げるような真似は、サイトーにはできなかった。
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