「痛ェ。だるい」
「それに気持ちいい」
「馬鹿」
パズの軽口に悪態で応じたが、その声にはあまり力が入っていない。
パズは一度の絶頂では満足せず、その後も付き合わされた。
サイトーの腰を覆う違和感と気だるさは、三日三晩不眠不休の行軍の時以上だ。
「サイトー。水だ」
「あぁ」
重い身体を引き起こし、水を受け取る。
あられもない声を上げさせられ、喉は渇ききっていた。ただの水がこれほど美味しいと思ったのは、従軍していたあの頃以来だ。
「どうだった?」
分かり切ったことを聞く男の態度に腹が立ち、サイトーは舌打ちする。
「聞くな」
「何だよ。さっきはあんなに素直だったくせに」
サイトーは一気に飲み干した空のペットボトルを顔面に投げつけたが、それは難なく受け止められてしまった。
「ったく! 散々いいようにしやがって! ケツが馬鹿になったらどうしてくれる?!」
「義体化しろ」
「阿呆!」
今度は拳を繰り出したが、やはり簡単に受け止められてしまった。
「慣れればよくなる」
「………慣れるまでするつもりか?」
「これっきりで終わらすつもりなのか?」
パズは掴んだサイトーの手の甲に口付けると、上目遣いでサイトーを見つめた。
「俺は一度で終わらす気はねぇな」
サイトーはパズの手を振りほどくと、口付けられた場所を乱暴に擦った。
「気色悪い真似するな!」
「気持ちいいならいいのか?」
「そういう問題じゃねぇ!」
ムキになって怒るサイトーの様子に、パズは面白そうに笑いながら煙草を咥えた。
「…俺にも一本くれ」
「あぁ。いいよ」
火を点けたばかりの煙草をサイトーに差し出す。サイトーは美味そうに肺の奥まで煙を吸い込んだ。
「………気が向いたら、また付き合ってやってもいい」
サイトーは聖人君子ではない。いずれ性欲も溜まってくる。
自分で抜いて処理するよりも、相手があればなお気持ちがいいことも知っている。ただ下手な相手を選べないだけで。
病気を移される危険性もなく、命を脅かされる恐れもない相手ならば、その心配もない。
「もう寝る」
吸いかけの煙草を渡すと、パズはそれを口に咥えた。
「ゆっくり休め」
「あぁ、そうする」
サイトーは目を閉じると、一気に眠りに落ちていった。
「気が向いたらねぇ………」
溜め息をつくように煙を吐き出す。
「なら、その気にさせてやるさ」
パズを本気にさせた者は、皆その代償を支払ってきた。
サイトーもその例外ではない。
煙草を灰皿でもみ消し、寝息を立てている男の顔を眺める。
「…この距離じゃあ銃は効かねぇって分かってるだろうな? サイトー」
肌が触れ合うほどの近距離ならば、有効なのは銃よりもナイフだ。
「本気で俺を拒絶するなら、俺の射程に入る前に撃ち殺せ。でなければ、俺はお前を………」
連れて行ってしまう。
天国でもなく、地獄でもない、どこかへ。
パズは自嘲するように哂うと、布団に潜り込んで目を閉じた。
Fin
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