銃とナイフ 2 -前編-
≪サイトー。今夜空いてるか?≫
≪明日から少佐と一週間ばかり出る。飲みなら付き合ってやってもいい≫
≪なら付き合え≫
≪………言っておくが、寝るとは言ってねぇぞ≫
≪何だ。少佐と寝るつもりだったのか?≫
≪…随分と恐ろしいこと言うな≫
≪そうか? 上がったら下の駐車場で待ってる≫
≪…分かった≫
パズは相変わらず分かりにくい男だが、少しだけ見えてきたことがある。意外と強引なところがあることだ。
こんな誘い方をする時は、サイトーと寝ることを望む時だ。こんな時こそ女を誘えばいいと思うのだが、何故かパズはそうしない。サイトーを誘う。
そして、サイトーは何だかんだと言いくるめられて、最終的にはパズの身体の下にいる。
サイトーは深く溜め息をついた。
「どうした、サイトー? 溜め息なんか吐いて」
共有室で一緒にコーヒーを飲んでいたトグサが心配そうに声をかけてくる。
「いや。ちょっと憂鬱でな」
「あぁ。明日から少佐と長期出張だっけ? 大変だよな」
軽く笑って会話を受け流しながら、サイトーはもう一度小さく溜め息を吐いた。
勤務時間を終えて駐車場に行くと、車のそばでパズが待ち構えていた。
今更抵抗しても仕方がないので、大人しく助手席に乗り込む。
「先に言っておく。今夜は酒は抜きだ。飯食って、ヤることヤったら帰るぞ」
「了解。飯はデリでいいな?」
「あぁ」
サイトーはむっつりと黙り込んだまま、後方に流れていく景色を眺めている。
パズはそんなサイトーの横顔を一瞥すると、煙草を取り出し火をつけた。
「………何で俺なんだ?」
不意にサイトーが口を開いた。右目は相変わらず、窓の外に向けられたままだ。
「あ?」
「女でもいいだろう? お前なら」
パズは手早く性欲を処理するのに困るような男ではない。女をいとも容易く落とすことができる。
「今夜はそんな気分じゃなかった」
「…言ってることが矛盾してねぇか?」
「どこがだ?」
「ヤる気分じゃねぇってことだろ?」
「女とはな。今夜はお前が良かった」
「………何だそりゃあ」
まるで口説き文句を言われたみたいで居心地が悪くなり、サイトーは軽く腰を浮かせて座りなおした。
「気分で飲みたい酒が変わるのと同じだ。お前だってそういう時があるだろう?」
「気分で選べるほど、酒に詳しくねぇよ。飲んで酔えて美味けりゃ文句ねぇ。銘柄までいちいち覚えてねぇな」
「ビール、日本酒、ワイン、ウイスキー…それくらいの区別はあるだろ?」
「まぁ…それくらいはな」
「そんなものさ」
「で…今夜は『俺』か?」
「あぁ」
パズの気分で振り回されるなど冗談ではなかった。
「…今夜はそう長くは付き合えないぞ」
「分かってる。明日お前が使い物にならないなんてことになったら、俺が少佐に絞められる」
草薙はプライベートにまで口を出すような人間ではないが、任務に支障が出るとなれば話は別だ。
「今夜は帰れるようにしてやる」
「…分かってるならいい」
サイトーはそれ以降口を開かず、程なく車はパズのセーフハウスの駐車場に滑り込んだ。
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