銃とナイフ 2 -後編-



「手を…放せ」
 その言葉は雫とともに、サイトーの口から零れ落ちた。
「口でしてやる。だから放せ」
 どんなに手加減されても、突っ込まれれば絶対に堪える。一晩の短い休息で回復できるほど、慣れている行為ではない。
 例えそれがどんなに些細なことでも、草薙との任務でミスをするなど許さない。
 ミスに繋がる要因は小さなものでも排除しなければならない。
 屈辱に耐えることなら慣れている。それにこれはここで帰ることができない自分の弱さが原因でもある。
 パズの身体がサイトーからスッと離れた。隙が生まれたサイトーの背中にシャワーが降り注ぐ。
 サイトーは俯いたまま振り向くと、シャワーの下に、パズの前に跪いた。
 いきり立つパズのモノにそっと手を伸ばす。
「…サイトー…」
 そして、それを口に咥えた。



 思っていた以上に不快な行為だった。雄の匂いが鼻につく。
 それでもそれに歯を立てぬよう気遣いながら、唇と舌で刺激を与えた。
 上手にできているとは思っていない。だが、それでもパズは感じているようで、荒く息を吐く気配が感じ取れた。
 パズの手がサイトーの短く刈った頭を撫で回す。それは子供の頭を撫でる親のようで、サイトーは少し可笑しくなる。
≪何が可笑しい?≫
 パズはサイトーの額を押して上を向かせた。サイトーはパズを咥えたまま上目遣いで見上げる。
≪お前がとても気持ち良さそうにしてるんでな≫
≪あぁ、最高だ。お前に舐めてもらってるんだからな。だが、まだイくにはもの足りねぇ≫
≪今すぐイかせてやるから黙ってろ≫
 サイトーは中断していた行為を再開した。
 その手の商売をしている女にしてもらった時のことを思い出しながら、パズに行為を施す。
 口だけではなく、手でもパズのモノを扱き上げると、パズの身体がピクリと反応した。
 思い起こせば、パズはサイトーのモノを平然で咥える。それどころかサイトーが吐き出した情欲の名残を飲み下す。
(よく平気だな…)
 パズをイかせるとは言ったものの、それを飲み込めるかと聞かれれば答えは否だ。
 パズが吐き出す寸前に放すしかない。例え顔にかかってもシャワーで流せばいい。飲むよりはずっとマシだ。
 それを考えると、このパズという男のことがますます分からなくなる。
 漁色の噂は良く耳にするし、女と連れ立って歩く姿も見たことがある。また、それが同じ女であることはない。
 しかし、男との関係はまったく聞いたことも見たこともなかった。
 だが、サイトーとの行為で男との行為にも慣れていることは分かっている。
(…分からねぇ…)
 九課に配属されるまで、いやサイトーに出会う前まで、いったいどういう人生を歩んできたのか。
 それは知らなくてもいいことだし、また聞けることでもない。
 そこまで立ち入ることが赦されている関係ではない。
 例えこうして身体を重ねていても。
≪…何を考えている?≫
 考え事をしていたせいで行為が疎かになっていたようで、パズが声をかけてきた。
≪お前のことだ≫
 その言葉に嘘はない。
≪どうやったら俺を早くイかせられるか、か?≫
≪お前が今まで何人の男と寝てきたか、だ≫
 パズの細い目が一層細くなった。
≪何だ? 嫉妬か?≫
≪そうじゃねぇ。お前は男とのセックスも慣れてる。こういうのは検索で調べて覚えるものでもねぇだろう?≫
≪そうだな。知りたいのか?≫
≪いいや。俺には関係ねぇ≫
 どんな女と寝ようと、どんな男と身体を重ねようとまったく関係ない。
 パズの一時の時間を通り過ぎていく情人たちと、サイトーの立場は同じだ。ただ違うのは命を預けあう同僚であることと、行為を重ねた回数くらいだろう。
 しかし、それでもパズの過去を知る権利はサイトーにはない。
≪…サイトー。もういい。放せ≫
≪まだだ。まだイってないだろう≫
≪いい加減、顎が疲れたんじゃねぇのか? いくらお前が無口でも、まったくしゃべらないっていう訳にもいくまい? 慣れてないのは分かってる。素直に言うことを聞いとけ≫
≪それで? 今度は下の口に突っ込むか?≫
≪しねぇよ。いいから放せ≫
 パズは強引にサイトーを引き離すと、腕を掴んで立ち上がらせた。







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