「うっ! あっ! ん…!」
やはりヴァーチャルとリアルは全然違う。
パズのリアルな熱を己の内に感じながら、サイトーは呼吸をするのもやっとだった。
「パ、ズ! 加減しろよ…!」
「嫌だね」
パズは病み上がりのサイトーの身体にも容赦がない。
快楽も苦痛もすべてをサイトーの肉体に叩きつける。
「壊…れる…っ!」
「壊れちまえ」
「うあぁ! うあぁぁぁぁっ!」
もう一度あの悪夢の中に落ちていくようで。
現実にしがみつくように、パズの背中に爪を立て、傷を残してサイトーは達した。
「パズ」
「何だ?」
「お前、俺を殺したかったのか?」
静寂を取り戻した部屋の中に、二本の煙草の煙が立ち昇る。
「あぁ」
パズはサイトーの問い掛けを躊躇なく肯定した。
「そうか」
分かっていたことだ。草薙が入れなかったサイトーの中へ、パズが入れた理由。
それはサイトーの死をパズが望んでいたからだ。サイトーが生きることを望んだ者たちは決して入ることができない。
「お前が死ぬところを夢想する。だが、それはいつも少佐がお前を殺して終わる。それ以外のシチュエーションが思い浮かばない」
「少佐が俺を殺したがってるって?」
「違う。お前を殺せる者がいるとしたら、それは少佐だけだろうと思っていた」
この男は他の誰にも殺せない。パズはそうした確信を持っていた。
「だが、お前は少佐の手に掛かる以外の方法で死のうとした。そんな死に方をされるくらいなら、俺がお前を殺してやりたかった」
「…そうか」
「お前は死にたかったのか?」
その答えを出す前に長い沈黙を要した。
「………死んでもいいと思ったことはある」
「…そうか」
「だが、その死に方はあまりに無様で、後で必ず思い直す」
するとパズはクッと小さく笑った。
「お前がそう思う瞬間、当ててやろうか?」
「あ?」
≪イく時だろ?≫
途端にサイトーが咽た。持っていた煙草を慌てて灰皿に押し付ける。とっさに反論が出ないのは図星の証しだ。
「女の身体の上での腹上死ならぬ、俺の身体の下で腹下死か? 確かにそいつは無様以外の何物でもないな」
「う、うるさい! 黙れ!」
「俺がお前の中に入れた理由。俺がお前を殺したかっただけじゃない。お前も俺になら殺されてもいいと思った。だから入れた」
「黙れって言ってんだろうが!」
「俺もお前に殺されるなら本望だ」
その言葉にサイトーはものすごく嫌そうな顔をした。
「お前。その台詞、あの時殺した女にも言ってなかったか?」
「言ったな」
「それはお前の口説きの常套句か?」
「俺は『こいつになら殺されてもいい』を思うヤツとしか寝ない」
「死ななかったじゃねぇか」
「それはあいつにその技量が足りなかっただけだ」
「………呆れた奴だ」
サイトーは心底嫌そうに溜め息をついた。
「サイトー」
「何だ」
「死ぬなよ」
「死ぬか。馬鹿」
「………」
「………パズ」
「何だ?」
「お前も下らない死に方をするなよ」
「あぁ」
草薙はサイトーに生きることを強要する。
パズもまた、サイトーに生きることを強要する。草薙とは違った意味で。
「もう寝るぞ」
「今度は一人で起きろよ」
「! 分かってる」
サイトーもパズも死ぬことはできない。
互いに互いを殺しあうその日まで。
Fin
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