(怒らせたか?)
 パズとしては冗句のつもりだったのだ。サイトーほどのプライドの高い男が、男のモノを咥えるのに躊躇わないはずがない。
 しかし、次にサイトーがとった行動は、パズの予想を超えるものだった。
「…分かった」
 サイトーはパズの前に跪くと、パズのモノを手に取り、口に含んだ。
「…おい」
 静止の言葉は、鋭く見上げる生身の右目に封じられてしまった。
 パズは了承の意味を込めて、サイトーの頭に手を置いた。
 パズがサイトーに施す行為を脳内でトレースしているのだろう。サイトーは目を瞑って行為に没頭しはじめた。
「…ん…」
 決して上手いとはいえない。しかし、感じるには充分な刺激だった。
 しかも、それは膝を屈することを潔しとしない男が施す行為なのだからなおさらだ。
 シャワーの水音に混じって、息苦しそうな吐息が漏れ聞こえてくる。
≪…パズ、どうだ?≫
≪あぁ。悪くない≫
 サイトーの短く刈った頭をゆっくりと撫でてやる。
 顎が疲れ、苦しいはずなのに、サイトーは愛撫を止めようとしない。
 パズはサイトーの粘膜が触れる部分に神経を集中し、その時を待った。
≪サイトー。そろそろ出すぞ?≫
≪あぁ≫
 パズの目の下で蠢くサイトーの頭を両手でしっかりと掴む。
「…くっ!」
「…ぅわ…!」
 その瞬間、パズはサイトーの頭を引き剥がし、パズが放った白濁した粘液がサイトーの顔に掛かった。
「すまん」
 パズは慌ててシャワーヘッドを外し、サイトーの頭からお湯を降りかけた。
 サイトーが手で顔を拭ったのを確認して、シャワーを元に戻す。
「…パズ。お前、何で…?」
「流石に飲むのは嫌だろうと思ったんだ。まさか顔に掛かるとは思わなかった。悪かった。目に入らなかったか?」
「あぁ、大丈夫だ」
 サイトーは顔の水滴を拭いながら立ち上がり、相当疲れているだろうと思われる顎を労わるように、パズはサイトーの頬を撫でた。
 それを感じたのか、サイトーがほっと息を吐いた。
「フェラってのは想像以上に顎が疲れるな」
「そいつを慣れとテクでカバーするんだ」
「俺には無理そうだ」
「どうする? 俺に突っ込むか?」
 サイトーはパズの顔を見つめていたが、やがて首を横に振った。
「止めておく。お前があんあん鳴いてる姿が想像できん」
「アダルトソフトの女と俺を置換して想像するなよ」
 パズは思わず苦笑した。
 サイトーには抱かれている男の画像データがないのだろう。かくいうパズにもサイトー以外のデータはないのだが。
「俺を抱きたかったんじゃないのか?」
「いつも俺ばかりが気持ちいい思いをさせてもらってるからな。たまには俺がしてやろうと思っただけだ」
「それでフェラか?」
「そうだ」
「律儀だな。お前は」
 サイトーは顎を擦りながら、難しい顔をした。
「お前はさっき他の男と寝られるかと聞いたな?」
「あぁ」
「無理だな。他の男に突っ込むのも突っ込まれるのもご免だ。ましてやイチモツを咥えるなんてできない」
「相手がバトーやイシカワでも?」
「願い下げだ」
 その言葉にパズは嬉しそうに微笑んだ。
「何だ? 何で笑ってる?」
「何でもない」
 そう言いながら、パズの笑いは止まらなかった。
 パズは嬉しかったのだ。サイトーに選ばれたことが。
 例えそれが興味本位だったとしても。
「サイトー」
「何だ?」
「光栄だ」
「何がだ? 意味が分からん」
「分からなくていい」
「お前酔っ払ってるんじゃねぇか?」
「かもな」
「おい。パズ…」
 その後の台詞はキスで封じた。



 パズの身体の下で熱がうねる。
 それは蕩けそうなほど心地よく、パズをゴーストごと包み込む。
「うぁ…あ、あぁ…!」
 パズの手で何度も絶頂に上り詰めたサイトーは、もう意味を成す言葉は発しない。
 ただ快楽を呻きという音声に変えて発信するだけになっている。
 パズの熱を受け入れ、飲み込むこの身体は記録装置。
 例えばこの先、サイトーが他の女や男と寝たり、脳殻を焼かれ記憶を失ったとしても、この生身の身体が覚えている。
 パズという名の熱を。
 これはパズという名の熱を、形を刻み込むための儀式だ。
 サイトーの生ある限りそれは保持され、死とともに消去される。
「パズ………パ、ズ…!」
「サイトー…!」
 そして刹那は昇華する。







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