身体を温めすぎると、サイトーの身体にアルコールが回りすぎて倒れる恐れがある。パズはシャワーのコックを調節して、サイトーが快適と思える湯温よりも少し低めに設定した。
 シャワーの雨の中にサイトーを立たせると、酒で火照った体温に水温が冷たすぎたのか、サイトーはぶるりと身体を振るわせた。
 サイトーの身体を抱きしめるように、パズもシャワーの中に身を投じると、サイトーの口を乱暴に塞いだ。
 途端に口内が酒の香りに満たされる。パズはサイトーに酒を飲ませすぎたことを少しだけ後悔した。
 舌を絡めて、軽く吸い上げる。名残惜しげに唇を離すと、サイトーの足元が少しだけふらついた。腰を抱き寄せて支えてやる。
 サイトーはパズの両肩に手を置いて足を踏ん張ると、少し顔を上げてパズの顔を見つめた。
「………パズ」
「何だ?」
「そんなに簡単にできるものか?」
「…男を抱くことか?」
「あぁ」
「男との経験はお前の方が豊富だろう?」
「『抜く』のと『寝る』のは別物だ。…俺のは…俺はただ抜きあってただけだった。お前との行為でそれを思い知った」
「………………………」
「突っ込むのまでは分かる。女とは突っ込む場所が違うだけだ。だが………」
「だが…何だ?」
「男のイチモツを舐めたり、しゃぶったり………初めてでもできるものなのか?」
 パズは水の滴る前髪をかき上げ、手のひらで顔の雫を拭った。
「サイトー。俺は同じ女と二度寝ることはない」
「知っている」
「だから一つだけ決めていることがある」
「何だ?」
「相手が嫌がるセックスは決してしない」
 それは意外なほど決然とした台詞だった。
「一度きりの関係だ。二度目はないから、やり直しも効かない。だから禍根や悔いが残る抱き方はしない。それが俺の矜持だ」
 そんなパズの抱き方故に、パズにハマってしまう女もいることは確かだ。ある意味危険だと分かっているのだが。
「…スケコマシの矜持か」
「俺にだって譲れないものはある」
「それがどう繋がるんだ。その………男を抱くことと」
「男を抱くというより、お前と寝ると決めた時、お前が嫌がる抱き方はしないと決めていた。逆に言えば、お前がイイと思える抱き方をしようと思った」
「………………………………」
「お前がイイと思えれば、お前のモノを咥えることくらいどうってことなかった。ケツを舐めることだって何てことはない。俺にはどうだっていいことなんだ」
「………俺がお前に突っ込みたいと言ってたら、お前は受け入れたのか?」
「今でもお前がそうしたいなら、してもいい」
 サイトーには理解できることではなかった。
 しかし、パズはパズなりの筋を通しているのだと、それだけは感じ取れた。
「サイトー。お前はどうなんだ?」
「何が?」
「お前は他の男と寝たことがあるんだろ? 他の奴らと寝たいとか思ったことはないのか? それとも既に寝たことあるのか?」
「他の奴?」
「バトーとかイシカワとか………付き合い長いんだろ?」
「はぁ?」
 思ってもみない人物の名前を出されて、サイトーは頓狂な声を上げた。
「バトーは少佐しか見てねぇだろ。イシカワも知識として知ってても、そんな趣味があるとは思えん」
「お前から誘ってみればのるかもしれない」
「あのオジイをか? 冗談はよしてくれ。そんな目であいつを見たことはない」
 イシカワと寝る。それはサイトーの想像を遥かに超えた行為に思えた。
 例えば、今ここにいるパズをイシカワの画像に置き換えてみたとしても、欲情できるとは思えない。
「そうなるとますます俺にも分からんな」
「何がだ?」
「お前が俺の誘いにのった理由だ。イシカワやバトーと違って、俺はお前にそういう目で見られてたってことか?」
「そんな訳ないだろ」
 パズに誘われたあの日まで、サイトーにとってパズは同僚の一人だった。
 その位置が確実に動いたのは、身体を重ねたあの日からだ。
「付き合いが長いバトーやイシカワ、新入りで履歴のログが回ってきたトグサと違い、お前はお前自身に関するデータが少なかった。お前は口数が少なくて、自分のことは何もしゃべらないし、そういった意味で興味はあった。変な目で見てた訳じゃない」
「じゃあ何で俺の誘いにのった?」
「………何でだろうな。俺にも分からん。酒に酔ってた訳じゃない」
「………………………」
「………興味本位………だったんだろうな」
 少なくとも『恋』や『愛』ではない。
 定期的に身体を重ねるようになった今でも、パズに対してそういった感情をもったことはない。
 パズから女の話を聞いても、また女を変えたのかくらいにしか思えず、嫉妬という感情から縁遠い。
 多分、『恋』や『愛』などという類のものに縛られるのを、お互いが嫌っているからだろうとサイトーは思っている。
「…そうか」
 サイトーの答えを聞いたパズは心なしか嬉しそうだった。
「サイトー。男を抱くのに興味があるなら、今日はお前が俺を抱いてみるか?」
「…何?」
「手始めに俺をイかせてみせろよ」
「イかせるって…どうやって?」
「もちろん口でしゃぶって」
 険しい表情でサイトーは押し黙ってしまった。



  



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