左眼に手を出すな



「パズ。これ」
「何だ?」
 サイトーから手渡されたのは、パズが気に入っているウイスキーのボトルで、しかも極上品のものだった。
「その…この間のお返しだ」
「この間? …あぁ」
 ばつが悪そうに視線を外すサイトーを見て、パズは何のことかやっと気づいた。
「ホワイトデーか」
「そうだ。お前なら菓子より酒だろう」
「まぁな。マシュマロだのクッキーだのをもらっても困るな」
「だからそれにした。その銘柄好きだったろう?」
「あぁ。覚えててくれたんだな」
「まぁな」
 照れくさいのか、サイトーは相変わらずパズの方を見ようともしない。
「ちゃんと返したからな。じゃあ」
「待てよ、サイトー」
 パズは踵を返したサイトーの背中を呼び止めた。
「折角だ。一緒に飲もうぜ」
「お前にやったものを俺が飲んだら意味がねぇだろうが」
「俺がもらったものを誰と飲もうと俺の勝手だろうが」
「それはそうだが………」
「それにイシカワ曰く、『いい酒を独り占めするのは大罪』なんだそうだ」
 困ったような、渋い表情を浮かべているサイトーを見つめ、ふっと微笑む。
「今夜うちに来いよ。サイトー」
「分かった」
 今度こそサイトーは踵を返し、パズの手の中で琥珀色の液体が音を立てた。







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