「美味いな」
「だろ?」
パズが気に入っているというその酒は確かに美味く、サイトーは感嘆の吐息を漏らした。
「お前は美味いものを本当によく知ってるな」
「どうせ食うなら美味いものがいいだろう? 好き好んで不味いものを食う必要性はねぇしな」
「確かに」
二人の目の前には、パズ手作りのおつまみが並べられている。それもまたサイトーを唸らせるのに充分な出来栄えだった。
「美味すぎて、ついつい飲み過ぎそうだな」
「意外と度数が高いからな。ちゃんとセーブしろよ」
「分かってる」
体内プラントで瞬時にアルコールを分解できてしまうパズとは違い、サイトーは生身だ。
以前もワインを飲みすぎて潰れてしまったことがある。
「ところでサイトー」
「何だ?」
「ホワイトデーのお返しはコレだけか?」
その台詞にサイトーは少しだけムッとした表情を浮かべた。
「………その酒じゃ不満だってのか?」
「酒に不満はない」
「じゃあ何だ?」
「俺はお前にチョコレートを口移しで食わせてやったぞ」
パズの台詞にサイトーは酒を吹き出しそうになった。
「口移しで酒を飲ませろってのか?!」
「お返しは期待させてもらうと言っただろう」
「そんな女みたいな真似ができるか。阿呆」
サイトーは腹立たしげにつまみを口に放り込んだ。
もぐもぐと租借しているサイトーをパズはじっと見つめた。
「………パズ。俺は絶対にやらんぞ」
「サイトー」
「何だ?」
「ケツの穴から酒を流し込むとすぐに泥酔するらしいな」
サイトーは咽て、激しく咳き込んだ。アルコールの混じった痰が、喉を焼くように痛めつける。
「大丈夫か?」
「大丈夫なわけあるか!」
サイトーは叩きつけるようにグラスをテーブルに置いた。
「パズ。お前は俺をどうしたいんだ?!」
「別にお前のケツの穴から酒を飲ませるつもりはねぇよ。酩酊しているお前を抱いたって面白くもなんともねぇ」
「………………………」
「なけなしの理性に縋りついてるお前のポーカーフェイスを、一枚ずつ丁寧に剥がして落とすのが面白いんだ」
「…このくそサディスト…」
「何とでも言え。俺はお前とのセックスが気に入ってる。お前だってそうだろう?」
サイトーは黙ったまま答えない。肯定の言葉を口にするのが嫌だったのだろう。
「サイトー。俺は酒に酔うことができない。体内プラントを発動させなきゃ済む話だが、それだけじゃ本当の意味で酔った気分にはなれない。だからってケツから流し込んで無理やり酔うのは色気も何もない」
「………だから何だ」
「お前がくれた酒で、お前からの口移しなら酔えるんじゃねぇかと思ったんだ」
パズがボトルを手に取ると、たぷんと心地よい水音が鳴った。
「サイトー。お前に酔ってみたい」
サイトーはまじまじとパズの顔を見つめ、深く深く息を吐き出した。
「………そうやって女を落とすのか?」
「今、口説いてるのはお前だ」
「………………一度だけだ」
サイトーは意を決したように決然と言い切った。
「その代わり約束しろ」
「何だ?」
「俺に決して触るな」
「あぁ、いいよ」
サイトーはグラスにウイスキーを注ぐと、ゆっくりと立ち上がった。
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