パズの細い目がじっとサイトーを見つめている。
「お前はいつだって本気だ。そのポーカーフェイスの下でいつも真剣勝負をしている。この俺に対しても」
パズの口元にふっと自嘲めいた笑みが浮かぶ。
「だが俺は嘘ばかりだ」
「…そんなことはねぇだろう」
「お前がそう感じるのは、お前に対してだけは嘘はつかないようにしてきたからだ」
「!」
「どうせつくなら優しい嘘を………そう思った」
「…どこの口説き文句だよ…」
パズの顔を見ていられず、サイトーは堪らず視線を逸らした。
「なぁ、サイトー」
「何だ?」
「お前も少佐が好きなのか?」
パズの言葉に再び絶句する。パズの顔を見つめなおし、その台詞が本気であることを確認すると、サイトーは長く息を吐き出すように呟いた。
「…そんなんじゃねぇよ…」
「…そうだな…」
サイトーの草薙に対する想いに恋愛感情が含まれていないことは知っている。
サイトーのそれはどちらかというと『畏怖』に近い。
けれど、それが時折、神に対する信仰のように見えてしまうのも確かだ。
「少佐と寝たいと思ったことは?」
「恐ろしいことをさらりと言うな」
「そうか? 俺はあるぞ」
「嘘だろ?!」
「言っただろ。お前に対しては嘘はつかないって」
サイトーは口を半開きのまま、まるで人外のものを見たかのようにパズを見つめた。
「アレが女に見えるのか?」
「お前にはどう見えてるんだ」
サイトーのあまりな台詞に、パズは堪らず笑い出した。
「まぁ、俺は同じ女と二度寝る趣味はねぇからな。少佐とも一度『寝た』きりだ」
「! 寝たのか?!」
「一度な」
サイトーは腰を浮かせるほど驚き、椅子から落ちそうになっている。そんなサイトーの様子に、パズはまた笑った。
「お前は本当に面白いな」
「笑うな」
「無理だな」
「んだと…」
サイトーが拳を振り上げると、パズは雑誌で頭部を庇った。
「怪我人相手に乱暴するつもりか?」
「! すまん」
雑誌の陰でパズが小さく吹き出す。
「本当にお前は真面目だな」
「からかうな」
パズは可笑しそうに肩を揺らしながら、雑誌を放り投げた。
「…いつもベッドの上だから、たまには変わったシチュエーションにしようと思った。お前好みのスリリングなシチュエーションに」
「!」
「お気に召さなかったのは残念だ」
サイトーは深い溜め息をついた。
「…心臓が止まるかと思った」
「そうか。俺の方こそ悪かったな」
「いい。でも二度とするな」
「あぁ。今度は別のを考えるよ」
「考えなくていい! 余計なことはするな!」
「了解」
サイトーからはこの部屋に来た時にまとっていた緊張感が消えている。
パズは安心したようにそっと息を吐き出した。
「謹慎中にやることないなら、見舞いに来てくれ。ここの看護婦は硬くてつまらん」
「お前…看護婦にまで手を出すなよ」
「………いいこと思いついた」
「? 何だ?」
≪病院のベッドの上でってのはどうだ?≫
「怪我人は大人しく寝てろ。馬鹿」
サイトーは雑誌を取り上げると、丸めてぽかりとパズの頭を叩いた。
Fin
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