パズは軽くシャワーを浴びた後、ベッドで伸びたままのサイトーの身体を丁寧に清めてやった。
 汚れたシーツ類も新しいものに変えて、パジャマを着せたサイトーを寝かしつける。女相手にも、こんなに甲斐甲斐しく世話をしたことはない。
 同僚だからとか、体調を崩す危険性だとか、そういう理由からではない。
 サイトーという男を、自分の情欲で穢したままにしておきたくないのだ。自分のつまらないエゴだという自覚はあるが、サイトーには綺麗なままでいて欲しかった。
「………パズ?」
 布団をかけてやると、サイトーが薄く目を開いた。
「疲れただろ? 寝ていいぞ」
「………ん………」
 パズは布団の上からぽんぽんと叩くと、灯りを落としてベッドから離れた。
 否。離れようとした。そんなパズの手首をサイトーが掴んでいる。
「…サイトー?」
「…パズ…」
 薄暗がりの中、消え入りそうな声が漏れた。
「………寒い………」
 パズは布団ごとサイトーの身体を抱きしめると、優しくキスを落とした。
 涙が零れた右目に。
 泣くことを許されぬ左目に。
 そして傷ついたままのゴーストに。
 サイトーの頭を胸に抱き込む。機械制御された心音でも安心したのか、サイトーはほっと息を吐いて目を閉じた。
 パズはずっとサイトーを抱きしめていた。
 煙草は必要なかった。



 翌日出勤すると、妙に落ち着かない様子の同僚と屋上で出会った。
「…パズ」
「おう。良く眠れたか?」
「あ、あぁ」
 サイトーの言動がぎこちない。それを見て見ぬ振りをして、パズは煙草の煙を吐き出した。
「その、何だ。…今朝、目覚めたら、何故かお前のシャツを握り締めてたんだが………」
「あぁ。酔っ払ったお前が放してくれなかったからな。脱いで置いてきた」
「そう………なのか?」
「………覚えてないのか?」
「いや。覚えてはいる。お前と飲んで、その後俺のセーフでお前と寝て、それから………」
「………それから後は覚えてない、と」
 図星だったのだろう。パズが面白そうに笑うと、サイトーは少しだけ嫌そうな顔を見せた。
「その様子じゃあ、何を言ったのかも覚えてねぇな」
「何?! 俺は何か変なことを言ったのか?!」
「さてな」
 パズが恍けてみせると、サイトーはその腕を乱暴に掴んだ。
「パズ! 昨夜の記憶見せろ!」
 いつになく慌てる狙撃手をしげしげと眺め、パズは一語一語確認するように言った。
「サイトー。本当に見たいか?」
「………う………」
 見ることになるのは、酒で記憶の飛んだ己の痴態だ。リプレイするのは恥辱以外の何物でもない。
「安心しろ。他のヤツには言わん」
「言われてたまるか」
 サイトーはパズの腕を放すと、猛然と煙草を吹かし始めた。
「………口止め料が必要か?」
「いいや。その代わり、次に深酒する時は俺を呼べ」
「…何でだ?」
「記憶のないお前を俺は一回見ている。他のヤツにも見せたいか?」
「!!!」
「そういうことだ」
「………了解、した」
 サイトーは憤然と火を点けたばかりの煙草を踏み消し、踵を返した。
「今度、酒を飲む時は、独りで家で飲む」
「それならお前のセーフまで行ってやるよ」
「来なくていい!」
 サイトーは一言怒鳴ると、ドアの向こうに消えた。
 どんなに拒絶されようと、どこへでも行くつもりでいる。
 寒いと本音を呟いた、サイトーのゴーストを抱きしめるために。



Fin






トオコ・モリエ様からの9999Hitリクエスト/
『酩酊して意識のないサイトーを優しく抱くパズとパズの愛撫に従順に応えるサイトー』
リクエストありがとうございました。






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