Gun & Gunslinger
射撃訓練場に銃声が轟く。
サイトーは左手で構えたセブロの引き金を断続的に引き続けた。
サイトーのテクニックを盗もうとしていたギャラリーたちはその気迫に押され、いつしか姿を消していた。
そこに一つの人影がふらりと現れた。
「換装後のチェックにしては随分と念入りね」
サイトーはようやく銃をおろすと、手すりに凭れている女を見上げた。
「そういう少佐は随分と遅いご帰還だな」
同じ鷹の目を持つスナイパーとの対決で左の義手を破壊され、入院したサイトーのもとに届いたのは、かつての上官の復帰の知らせだった。
換装を終えて九課に戻ってきてみると、その人は瀕死のテロリストの電脳とつながり、意識を失ったまま戻ってきていないという。
自ら会いに行く気にもなれず、左腕のチェックと称してサイトーは地下の射撃訓練場から上がってこようとはしなかった。
そして、二年間姿を消していたその女―草薙素子が、今サイトーの目の前に当時と変らぬ姿のまま立っている。
「怒ってるの?」
「俺が? 何故?」
「的ではなく、誰かを狙って撃ってるみたいに見えたから」
草薙は無残に穴の空いた人型の的を哀れむように見つめた。
「…気のせいだろう。俺は狙撃に一切の私情を挟まない」
「そうね」
サイトーは手元の銃に視線を戻すと、弾を換装した。
「………俺が怒る必要があるか?」
「え?」
「あの時は少佐の迷いが矢野を死なせたが、その叱責はバトーがやった。今更、俺がすることじゃない」
「………」
「九課に拘束力がない以上、少佐がどこに行こうと俺が関知することじゃない。………だが」
「だが…何?」
「少佐が俺の前からいなくなることがあるとしたら、それは俺が死ぬ時だと思っていた。少佐は迷わない。いつでも、どんなことでも決断できる人間なんだと思っていた。…いや、そう思い込んでいた」
「………」
「だが、少佐だって人間だ。それは俺の思い込みで、ただの押し付けなんだと気がついた。そんな俺が少佐の何を怒れる?」
「…サイトー…」
「俺が少佐をどうこう言う資格はねぇよ」
サイトーはそう呟くと、引き金を立て続けに引いた。ピンヘッドで狙いを定められた的の中央に穴が空く。
狙撃に私情は挟まない。悩みは隙を生み、死をもたらす。
だから、サイトーは銃を持つ以上は悩まないと決めている。
しかし、サイトーも人間だ。苦悩はある。それを見せないだけで。
それは草薙も同じなんだと頭では分かっている。分かってはいるが、分かりたくないのだ。
サイトーやバトーといった『武器』を手にした草薙が迷えば誰かが死ぬ。実際、矢野が命を落とし、イシカワも重傷を負った。
だから迷うなと、迷いを断ち切れと言いたかった。
迷うくらいなら、いっそのこと死んでくれと。
娘のために、マテバを自分自身に向けたトグサのように………。
それは己のエゴなんだと知っているのに。
サイトーは誰もいないどこかで、ずっと叫びたかった。
全弾を撃ちつくして、息を大きく静かに吐く。
心肺を義体化したはずなのに、何故か乱れているような気がした。
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